大判例

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那覇地方裁判所 昭和60年(行ウ)8号 判決

主文

一  昭和六〇年(行ウ)第八号事件について

原告の請求を棄却する。

二  昭和六〇年(行ウ)第九号事件について

原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は右両事件とも原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  昭和六〇年(行ウ)第八号事件について

被告が別紙物件目録一記載の土地について昭和六〇年三月二〇日付総理府告示第一七号をもってした使用の認定は、これを取り消す。

2  昭和六〇年(行ウ)第九号事件について

被告が別紙物件目録二記載の土地について昭和六〇年三月二〇日付総理府告示第一九号をもってした使用の認定は、これを取り消す。

3  訴訟費用は右両事件とも被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の本件各土地の所有について

原告は、別紙物件目録一及び同目録二記載の各土地(以下、それぞれ「本件一土地」、「本件二土地」という。また、右両土地を「本件各土地」という。)を所有している。

2  本件各使用認定処分の存在について

被告は、昭和六〇年三月二〇日、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(以下「駐留軍用地特措法」という。)五条の規定に基づき、本件各土地につきそれぞれ使用の認定(以下「本件各使用認定処分」という。)をし、同法七条一項の規定により、本件一土地については総理府告示第一七号をもって、本件二土地については同告示第一九号をもって、それぞれ告示した。

3  安保条約の違憲性を理由とする本件各使用認定処分の違憲性について

本件各使用認定処分の根拠法である駐留軍用地特措法は、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三五年六月二三日条約第六号)」(以下「安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和三五年六月二三日条約第七号)」(以下「地位協定」という。)の存在を前提としているところ、安保条約は、以下のとおり、我が国の最高法規である憲法に違反するから、本件各使用認定処分も違憲無効である。

(一) 安保条約六条の違憲性について

(1) 米軍駐留の憲法前文違反

憲法前文は、全世界の国民が平和のうちに生存する権利(平和的生存権)を確認しているが、平和的生存権とは、人間の平和的生存に不可欠な法的利益であり、人間の平和的生存を脅かす国家行為の排除を意味する。そして、これは、戦争目的や軍事目的のためになされる権利や自由に対する制限を排除する権利であり、自衛戦争であれ戦争を目的とする軍事基地の存在そのものが国民の平和的生存権を侵害するものであることは疑いをいれず、このことは軍事基地を使用する主体が我が国であるか外国であるかに全く関係がない。したがって、アメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の基地の設置を規定する安保条約六条は、平和的生存権を定めた憲法前文に違反する。

また、安保条約六条は、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことを目的として在日米軍基地の設置を認めているが、在日米軍は、その独自の判断において、我が国の安全等に寄与するために必要があると認めた場合、原則として自由に米軍基地から出動しうることとされている。

ところで、憲法前文において「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」と規定しているのは、積極的な戦争準備行為あるいは戦争の実施を禁止しているだけではなく、広く消極的な不作為を含めて、政府の行為が原因となって戦争の惨禍が起こることのないようにする、すなわち、他国間の戦争に巻き込まれてその惨禍を受けることを一切なくすることが決意されているのであるから、在日米軍の駐留を認める安保条約六条は憲法前文に違反する。

さらに、憲法前文は、「日本国民は、(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と述べ、日本国民の安全と生存は軍備によらず、「諸国民の公正と信義」によって確保することを宣明しているが、安保条約六条は、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)にのみ我が国に軍事基地を設置することを認め、その在日米軍によって国民の安全と生存を維持しようとするもので、憲法前文に違反する。

(2) 米軍駐留の憲法九条二項前段違反

憲法九条二項前段において、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と規定しているのは、我が国自体が軍隊及び軍事基地を保持しないということの他に、我が国の領土にいかなる戦力も保持しないということを含むところ、在日米軍は、右戦力に該当するので、その駐留を認める安保条約六条は、憲法九条二項前段に違反する。

また、仮に憲法がその保持を禁止した戦力とは、我が国がその主体となって、これに指揮権、管理権を行使しうる戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指すとしても、在日米軍は右戦力に該当するというのを妨げない。

なぜなら、在日米軍の出動が、我が国の指揮、監督に直接は服さないとしても、駐留それ自体は米国の一方的意思決定に基づくものではなく、我が国政府と米国政府との意思の合致によるものであり、我が国も間接的ながら安保条約六条の実施に関する交換公文によって、〈1〉米軍の我が国への配置における重要な変更、〈2〉米軍の装備における重要な変更、〈3〉我が国から行われる戦闘作戦行動(安保条約五条に基づくものを除く。)のための基地としての我が国内の施設及び区域の使用等については事前協議による在日米軍に対する監督の機会が保障されている。そのうえ、我が国は、在日米軍に軍事基地を提供し、地位協定による航空、通信の協定、公益事業等の利用優先権、気象業務の提供等各方面において各種の協力をなし、在日米軍の物資の調達について、輸入の一般的許可、輸入及び再輸出の際の関税及び税関検査の免除等の特権を認めるとともに、在日米軍の駐留に要する多額の費用を負担している。これらのことを実質的に考察すれば、在日米軍は、我が国自体の戦力に当たるといわざるを得ない。

特に、安保条約五条によれば、在日米軍は、我が国の自衛隊と共同行動をとる仕組みとなっているが、このことは、在日米軍が我が国自体の戦力と一体的機能を果たすもので、憲法九条二項前段によって禁止されている戦力というべきである。

(3) 米軍駐留の憲法九条二項後段違反

在日米軍は、安保条約六条によって、我が国の安全等のために駐留し、我が国に対する侵略に対し、武力行使をすることが予定され、右武力行使に際しては、在日米軍に交戦国が有する国際法上の権利が認められる。これは、我が国が憲法で否定されている交戦権を特定国である米国に委任したことを意味する。

すなわち、安保条約六条において、在日米軍の駐留を認めたことは、自らの手によって否認した権利を他国の手によって行使しようとするものであり、現実の交戦権の行使それ自体の禁止のみならず、交戦権を前提とする法律行為ないし事実行為をも禁止している憲法九条二項後段に違反する。

(4) 米軍駐留の憲法九八条二項、九条違反

国際連合憲章五一条は、個別的及び集団的自衛権を規定しているが、それは、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」で、しかも自衛権の行使に当たってとった措置は「直ちに安全保障理事会に報告」しなければならず、かつ、自衛権の行使は「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」に限られる。

しかし、安保条約六条では、国際連合憲章五一条の自衛権の行使の要件を超えて、米軍の在日米軍基地からの出動を認めているのであり、それも我が国に対する急迫不正な武力攻撃が発生した場合のみならず、広く「極東における国際の平和及び安全の維持」のために出動できるのである。結局、安保条約六条は、国際連合憲章五一条に基づかない在日米軍の行動を可能にするため基地の提供を約しているのであるから、自衛権及び自衛戦争を含む一切の戦争を放棄した憲法九条に違反するのみならず、国際連合憲章五一条に違反し国際的な義務への忠実を誓う憲法九八条二項に抵触する。

(二) 安保条約三条の違憲性について

安保条約三条は、「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」と規定し、我が国が軍事力を発展させることを義務付けているが、右規定は一切の戦力の保持を禁止した憲法九条二項前段に違反する。

(三) 安保条約五条の違憲性について

安保条約五条前段は、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」と規定し、日米の共同作戦を義務付けているが、右規定は、相互防衛義務を約束することによって、我が国が米国の行動を通じて戦争に巻き込まれる危険性を著しく増大させるとともに、右規定の下に日米両国の共同作戦計画が着々と進められ、これによって我が国自らが核兵器の使用を含む破滅的な戦争を引き起こす危険を招来するもので、憲法九条に違反する。

4  駐留軍用地特措法の違憲性を理由とする本件各使用認定処分の違憲性について

本件各使用認定処分の根拠法である駐留軍用地特措法は、以下のとおり、我が国の最高法規である憲法に違反するから、本件各使用認定処分も違憲無効である。

(一) 憲法前文、九条違反

駐留軍用地特措法は、安保条約及び地位協定によって我が国が負った基地提供義務を履行するための国内法上の措置として制定され、地位協定を実施するため日本国に駐留する米国の軍隊(以下「駐留軍」という。)の用に供すべく、土地等を使用・収用するについての土地収用法の特則を定めたものであり、安保条約及び地位協定がその不可欠でかつ明示の前提をなしている。

すなわち、駐留軍用地特措法と安保条約及び地位協定は不可分一体の関係にあり、安保条約及び地位協定が有効に成立して初めて駐留軍用地特措法も存在しうるものであり、安保条約が無効であれば、それは何ら法的意義を有しない。

そして、安保条約が憲法前文、九条に違反し、無効であることは、前記のとおりであるから、駐留軍用地特措法もまた違憲無効というべきである。

(二) 憲法二九条三項違反

駐留軍用地特措法は、「駐留軍の用に供する」という軍事目的のために、国民の私有財産を使用・収用することを目的とするものであるが、軍事目的のための使用・収用は、「公共のために」私有財産を用いる場合に当たらないから、憲法二九条三項に違反する。

また、安保条約六条は「極東における国際の平和及び安全の維持」のために駐留軍の出動を認めているのであり、このことにより我が国が自国の安全とは関係のない戦争に巻き込まれる危険が常に存在し、このような目的のために駐留する米軍の用に供するために、国民の私有財産を使用・収用することは、「公共のために用ひる」こととはおよそ無縁のことである。

(三) 憲法三一条違反

駐留軍用地特措法は、以下のとおり、土地収用法に比してその手続が著しく簡略化されており、使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるから、適正手続を保障した憲法三一条に違反し、無効である。

(1) 土地収用法においては、起業者が建設大臣又は都道府県知事に事業認定申請書を提出する際の添付書類として事業計画書の添付を義務付けている(一八条)。ところが、駐留軍用地特措法では、使用・収用の認定の申請に、このような事業計画書若しくはそれに相当する使用・収用の内容を具体的に説明した書類の添付が要求されていない。

(2) 土地収用法においては、建設大臣又は都道府県知事は、事業の認定を行おうとするとき、起業者が所在する市町村の長に対し、事業認定申請書及びその添付書類のうち当該市町村に関係のある部分の写を送付しなければならず(二四条一項)、右書類を受け取った市町村長は、公告の日から二週間右書類を公衆の縦覧に供しなければならず(二四条二項)、また、事業の認定に利害関係を有する者は、右二週間の縦覧期間内に、都道府県知事に意見書を提出することができる(二五条一項)旨、それぞれ規定する。これに対し、駐留軍用地特措法には、事業認定申請書やその添付書類の送付及び縦覧の手続がなく、利害関係人の意見書の提出についての定めもない。

もっとも、駐留軍用地特措法においては、防衛施設局長が使用・収用の認定の申請をする際には、申請書に所有者又は関係人の意見書の添付が要求され(四条一号)、使用・収用の認定の通知後、遅滞なく、土地等の調書及び図面が公衆の縦覧に供されることが義務付けられている(七条二項)。

しかしながら、土地収用法においては、事実上の利害関係を有する者にも意見書の提出が認められているのに比して、駐留軍用地特措法においては、所有者又は関係人に限定されたかなり狭い範囲でしかこれが認められていない。また、土地収用法においては、事業認定申請書等を閲覧のうえ、意見書を提出できるのに比して、駐留軍用地特措法においては、使用・収用の内容について殆ど知られていない状態で意見書を提出しなければならないのであるから、実質的な所有者等の権利保護においては、両者の間には雲泥の差があるものといわなければならない。

(3) 土地収用法は、事業の認定を行おうとする場合において必要があるときは公聴会を開いて一般の意見を求めなければならない旨定めている(二三条)が、駐留軍用地特措法は、右規定の適用を排除し、公聴会の制度を省略している。

5  本件各使用認定処分の違憲性について

本件各使用認定処分は、以下のとおり、我が国の最高法規である憲法に違反するから、違憲無効である。

(一) 憲法二九条三項違反

本件各土地を米軍基地の用に供することは「公共のために用ひる」とはいえないから、そのためにする本件各使用認定処分は憲法二九条三項に違反する。

(1) 公共性とは無縁の危険な米軍基地の実態

復帰後の沖縄の米軍基地が、米国の軍事戦略の変化に対応してその性格や任務、配備される部隊や兵器、兵力を再編しつつ強化されていることは周知のとおりであり、その変化の特徴は、海兵隊と空軍を中心とするすぐれて攻撃的な基地への再編ということである。

そして、沖縄の米軍基地の特色は、人口も面積も国内の約一パーセントしかない小さな島に、国内の米軍基地の約四四・四パーセントが集中し、特に米国が常時使用できる専用施設に限ると、これが国内の約七四・八パーセントを占めるという過密基地性が挙げられるうえ、基地機能の面でも沖縄に所属する軍人軍属は、在日米軍の総兵員数の約七割を占め、その殆どが実戦部隊であるという特色がある。

さらに、沖縄の米軍基地は、アジア、太平洋の全域はもとより、米国の中東戦略に基づく、中東、ペルシャ湾岸に対する緊急出撃、自由出撃の拠点基地となっている。

また、沖縄の復帰前、米軍の全くの自由使用に委ねられてきた沖縄の米軍基地も、復帰後は、本土の米軍基地と同様に安保条約体制下に包摂され、安保条約六条のいわゆる極東条項や事前協議制の制約を受けることとなったが、現実には、このような制約は制約としての意味を持ちえていない。

このように、沖縄の米軍基地の実態は、沖縄の米軍基地が我が国の安全とは全く関わりのない米軍の戦闘作戦行動に自由使用され、そのことによって沖縄はもとより我が国を戦争に巻き込む危険な存在であることを如実に示しており、このような米軍基地の用に供することは「公共のために用ひる」場合に当たらない。

(2) 核がらみの米軍基地

沖縄の米軍基地、とりわけ嘉手納基地には、核兵器が常時持ち込まれている可能性が強く、仮に常時持ち込まれていなくとも、少なくとも有事には何時でも持込みが可能な状態にあること、また嘉手納基地から核兵器を積んで発進可能な体制がとられていることは明白であり、このような沖縄の米軍基地の実態は、我が国の国是とする非核三原則に真向から反するものであり、本件各土地をこのような米軍基地の用に供することは、真の国益に合致するものではなく、「公共のために用ひる」場合に当たらない。

(3) 県民のあらゆる権利を侵害する米軍基地

憲法二九条三項の「公共のために用ひる」場合に当たるか否かは、一方的に米軍の必要性のみによって決せられるべきものではなく、米軍の用に供されることにより失われる利益をも十分に考慮して判断されなければならない。

そして、次のとおり、沖縄の米軍基地は、県民共通の利益を著しく侵害するものであって、決して利益をもたらすものではないから、米軍基地の用に供するために、本件各土地を使用することは「公共のために用ひる」ことにならない。

〈1〉 本件各土地を含む沖縄の米軍基地が復帰前において米軍の国際法違反の不法行為によって接収され、復帰後は違憲そのものというべき「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」(以下「公用地暫定使用法」という。)や「沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関する特別措置法」(以下「地籍明確化法」という。)附則六項によって、その不法な使用状態が継続されてきたものであり(以上について、後記6(一)(3)〈1〉参照)、今また駐留軍用地特措法によって継続して本件各土地を使用することは、これまでの不法使用状態を結果として追認することにほかならない。

〈2〉 沖縄には、本件各使用認定処分当時、米軍基地については国内の約四四・四パーセントのものが、専用施設については国内の約七四・八パーセントのものがそれぞれ存在しているが、それはもはや一県が負担しうる限度をはるかに超えており、その結果沖縄の社会、経済、文化等の生活のあらゆる面に多様かつ深刻な障害を与えている。

〈3〉 米軍の大小様々な演習と訓練による生活破損や自然破壊、流弾・墜落等の事故、爆音公害、軍人軍属の犯罪等基地被害が続発し、県民の財産や生命、自然、文化が日常不断に損害を被っている。

〈4〉 原告の那覇市は、東京二三区に次ぐ過密都市であるにもかかわらず、広大な米軍基地が存在することは、公園、緑地、社会福祉施設、文化施設等の公共施設の整備をはじめ都市づくり全般の妨げとなっている。

(二) 憲法三一条違反

土地収用法の規定の適用を定める駐留軍用地特措法一四条一項は、収用委員会の設置、組織等を規定する土地収用法五章一節の規定の適用を明文で除外しているので、土地収用法によって設置、組織された収用委員会には、駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用・収用を審理裁決する権限はない。

よって、本件各使用認定処分には、その使用を公正妥当ならしめる機関さえ存在せず、その適正手続を保障する措置が講じられないまま行われたもので、適正手続を保障した憲法三一条に違反し、無効である。

6  本件各使用認定処分の違法性について

本件各使用認定処分は、以下のとおり、駐留軍用地特措法三条所定の要件を充足していないから違法である。

(一) 駐留軍用地特措法三条所定の土地使用の要件について

駐留軍用地特措法三条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」を土地等の使用の要件としている。

(1) 「駐留軍の用に供する」という要件について

駐留軍用地特措法に基づく使用は、安保条約上の義務履行という理由により初めてその根拠を取得するものであるが、我が国が右条約上米国に対して施設及び区域の提供義務を負うのは、米国の陸軍、空軍及び海軍が使用する場合であるから、駐留軍用地特措法三条に基づく使用をなしうるのは、米軍の直接の使用に供する場合に限られねばならない。しかも、それは、軍隊駐留の目的を遂行する上で必要最小限度で、かつ、必須不可欠なものでなければならない。

(2) 「必要とする場合」という要件について

この要件は、駐留軍の用に供することが客観的に必要とされて初めて充足されるものというべきである。そして、右客観的必要性は、当該物件が具体的に駐留軍の如何なる用途に充てられるかということとの関連の下でのみ決せられる。したがって、駐留軍用地特措法に基づく使用に当たっては、当該物件が駐留軍の如何なる用途に充てられるかが具体的に明らかにされねばならない。そして、「必要とする場合」という中には、我が国が米国に対して当該物件を提供する必要性がどの程度のものかという「提供の必要性」と、我が国政府が当該物件を国民から強制的に取得しなければならない程の必要性があるかという「取得の必要性」の二つの側面がある。

まず、「提供の必要性」については、我が国は、安保条約上一般的な施設及び区域の提供義務を負っているが、具体的にどの施設及び区域を提供するかは米国と協議して定めることとなっているから、我が国は、条約上かなりの裁量権を有しているということができる。

次に、「取得の必要性」については、それが国民の財産権の制限をもたらすだけに、〈1〉我が国政府が主張する「提供の必要性」が駐留目的との関連で客観性を有しているか、〈2〉当該物件でなければならない必要性はどの程度のものか、当該物件を使用する以外に方法がないのか(非代替性)、〈3〉当該物件でなければならないとしても、それが使用に必要な最小限度の範囲といえるか(必要最小限度の範囲)などの諸点が考慮されなければならない。

(3) 「適正且つ合理的」という要件について

この要件は、土地等の利用の仕方が「適正」で、かつ、「合理的」であることを意味するものと解される。

〈1〉 「適正」という要件について

「適正」な土地等の利用とは、憲法及び法律に適合し、社会正義に合致する土地等の利用を指すものといえる。

これを、本件に即していうと、本件各土地は、約四〇年間にわたって所有者の意思に反して強制使用されてきた経緯があるが、それが違法に使用されてきた場合に、引き続き新たな強制使用をなすことは、「適正」な土地利用とはいいえない。なぜなら、駐留軍用地特措法に基づく使用が適法に新たな使用権原を取得する性質のものだとしても、当該土地がこれまで違法に使用されてきた場合には、その違法状態を解消せずに引き続き新たに当該土地に対して強制使用をなすことは、既存の違法状態を追認し、それを実質的に承継することになってしまうからである。

また、仮に過去の強制使用が適法になされていたとしても、その強制使用期間があまりにも長期に及んでいる場合に、引き続き新たな強制使用をなすことは、その強制使用自体が所有権を実質的に侵害する違法状態を発生させるものとして「適正」とは認められない。

なお、沖縄における米軍の土地接収及び使用は、以下(ア)ないし(エ)のとおり、国際法又は憲法に違反するものである。

(ア) 講和条約発効以前の米軍による土地接収、使用の国際法違反性

米軍は、「日本国との平和条約(昭和二七年四月二八日条約第五号)」(以下「講和条約」という。)発効以前の土地の接収、使用の法的根拠として、陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約(明治四五年一月一三日条約第四号)五二条を挙げていたが、同条約四六条は、戦時中といえども私有財産は尊重されなければならない旨定めている。

したがって、戦闘継続中において、戦争遂行の必要上、私有財産を使用することは右条約によって認められた権利であるが、これは必要最小限度に止めなければならず、戦闘が終了した時、あるいは遅くとも戦争が終了した時は、速やかにこれをその所有者に返還すべきものである。

よって、講和条約発効以前の米軍による土地の接収、使用は国際法に違反するものといわなければならない。

(イ) 講和条約発効以降沖縄の復帰以前の米軍による土地収用、使用の根拠法令の国際法違反性又は違憲性

米軍は、講和条約発効以降、同条約三条により、米国に与えられた沖縄の施政権を根拠にして、土地収用、使用に関する布告、布令を発布したが、これらの布告、布令は、以下のとおり、国際法又は憲法に違反するものである。

まず、米国民政府布令第一〇九号「土地収用令」(以下「布令第一〇九号」という。)は、権利取得のための目的、要件について何ら規定するところがなく、米軍の土地接収に形だけの法的根拠を与えることが目的とされ、収用告知後三〇日を経過しなくても米軍が緊急に占有し、かつ、使用する必要がある場合は、直ちに明渡しを命ずることができる旨の規定にみられるように、適正な手続により土地所有者の権利を保護しつつ公益と私益との調和を図るという側面が全く無視されており、国際法及び当時潜在的に主権を有していた我が国の憲法の許容しえない無効なものである。

次に、米国民政府布告第二六号「軍用地域内に於ける不動産の使用に対する補償」(以下「布告第二六号」という。)は、「黙契」という理論で土地使用を基礎付けているところ、右布告が前文において述べる陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約五二条に基づく不動産の使用又は講和条約三条による土地収用権に基づく使用と「黙契」による使用との各相互間に自己矛盾が存するうえ、米軍が占領中から強制的に使用していたという事実によって、その土地の所有者との間に黙示の意思表示による賃貸借契約が成立するというのは、土地の私有財産制度を認める文明国においては到底通用しない暴論であり、法的に承認されない。

さらに、高等弁務官布令第二〇号「賃借権の取得について」(以下「布令第二〇号」という。)は、布令第一〇九号及び米国民政府布令第一六四号「米合衆国土地収用令」(以下「布令第一六四号」という。)等の一連の収用法令の流れを受け、これらの集大成として発布されたものであるが、布令第二〇号の問題点は、右各布令の問題点と同様である(布令第一六四号は、布令第一〇九号、布告第二六号により米国が取得した権利を、布令第一六四号による権利として引き継ぐことを一内容とし、布令第一〇九号とほぼ同様の収用手続を定めるものであるところ、その問題点は、布令第一〇九号とほぼ同様であるが、「限定付土地保有権」を創設した点で、布令第一〇九号より問題がある。)。なお、布令第二〇号は、折衝に基づき琉球政府が土地賃借権を取得し、これを米国に転貸する形態を定めているが、このような契約の締結は、米軍の権力に屈伏した結果であるので、布令第二〇号の下での契約は自由意思に基づく契約とはいえず、従来の米軍の実力による土地使用を合法化する法的根拠とはなりえない。

(ウ) 公用地暫定使用法の違憲性

公用地暫定使用法は、本土における米軍基地の継続を保障する駐留軍用地特措法附則二項所定の使用期間六月の一〇倍の暫定使用期間(地籍明確化法附則六項による改正前)を定め、また、沖縄県民に対してのみ土地等の強制使用権を認めているので、沖縄県民を本土の住民と差別しており、法の下の平等原則を定める憲法一四条に違反する。

また、公用地暫定使用法は、事前の手続規定や事後の不服申立規定を欠くうえ、五年間もの土地等の強制使用を認めるものなので、憲法三一条から導かれる行政における適正手続の原理にもとり、憲法二九条の定める財産権の保障に対する侵害となる。

さらに、公用地暫定使用法は、自衛隊のためにも用地を確保しようとするものであり、現行の土地収用法制定に際し、土地収用の目的事業からその旧法に規定されていた「国防その他軍事に関する事業」が削除された経緯に照らせば、憲法九条の平和主義の精神と矛盾する。

(エ) 地籍明確化法附則六項の違憲性

地籍明確化法は、昭和五二年五月一八日に施行されたものである。そして、地籍明確化法附則六項は、公用地暫定使用法に基づく暫定使用の期間を一〇年に改める旨の規定であるところ、同法に基づく暫定使用権は、昭和五二年五月一五日午前零時の到来によって既に消滅していたのであるから、これを延長することは不可能である。したがって、地籍明確化法附則六項は、新たな土地収用規定であると解すべきところ、右規定には、事前手続規定や事後の不服申立規定が存在しないので、適正手続の保障を定めた憲法三一条及び財産権の保障を定めた憲法二九条に違反する。

また、地籍明確化法附則六項は、暫定使用の期間を一〇年間という長期に延長するものであり、合理的な私有財産権の制限とはいえないので、憲法二九条に違反する。

〈2〉 「合理的」という要件について

土地等の利用の仕方が「合理的」とは、土地等を当該使用目的のために使うことが「合理的」であるか否かというだけでなく、当該使用によって失われるその所有者等の側の事情及び土地等の他の用途との比較衡量を含むものである。

そして、その比較衡量の際、土地等を取り巻く状況を含めて、土地等の現状、その有する価値ないし利益が検討されることとなるが、この比較衡量の対象となる現況が違法に形成されてきたものである場合には、このような現況を排除して合理的な土地等の利用の仕方であるか否かを判断しなければならない。

ところで、本件各土地は、米国施政権下の土地強奪及び沖縄の復帰後の違憲無効な公用地暫定使用法及びそれに続く地籍明確化法附則六項により駐留軍用地としての現況が形成され維持されてきたものであるから、違法に形成された駐留軍用地としての現況を前提に合理的な土地の利用の仕方が比較衡量されてはならない。すなわち、右のような現況を排除して、本件各土地の所有者である原告の持つ利用計画の社会的、公益的意義、特に本件各土地が都市形成上ないし都市計画上どのような位置を占めているかを検討しなければならない。

さらに、比較衡量に当たっては、本件各土地が供される施設が爆音公害等の基地被害を発生させていることや本件各土地の具体的用途などが考慮されねばならない。

(二) 本件一土地についての本件使用認定処分の違法性について

(1) 「必要とする場合」という要件の欠如

〈1〉 保安緩衝地帯用地としての必要性の不存在

本件一土地は、普天間飛行場施設(以下「本件飛行場施設」という。)の敷地の一部であるところ、被告は、本件一土地は飛行場の保安緩衝地帯用地として使用されている旨主張する。

しかしながら、本件一土地と着陸帯との位置関係及び距離関係等を考慮すれば、保安緩衝地帯用地として本件一土地を確保する客観的必要性はないといわざるをえない。

すなわち、本件一土地は、着陸帯の側面西方に位置し、同土地のうち別紙物件目録一1記載の土地(以下「本件一1土地」という。)は、着陸帯の長辺の外縁から約三六五メートルの距離に、同土地のうち別紙物件目録一2記載の土地(以下「本件一2土地」という。)は、着陸帯の長辺の外縁から約七五メートルの距離に、それぞれ位置しているが、昭和三八年八月一五日に返還された土地の中には、着陸帯の側面西方に位置し、着陸帯の長辺の外縁からわずか約一七〇メートルの距離しかない土地も存しており、これら返還された土地と対比すれば、本件一土地も保安緩衝地帯用地としての客観的必要性が欠如しているものというべきである。

〈2〉 排水施設用地としての必要性の不存在

被告は、本件一土地は排水施設用地としても使用されている旨主張する。

しかしながら、排水施設については本件一土地を使用せず任意に取得した他の土地を使用すれば足り、たとえそれが被告に不便や経済的負担をかけるとしても、排水施設としての機能に全く支障をきたすものでない以上、本件一土地を使用する客観的必要性は存しない。

(2) 「適正且つ合理的」という要件の欠如

〈1〉 「適正」という要件の欠如

本件飛行場施設は、昭和二〇年に米軍の占領と同時に接収された後、布告第二六号により米軍使用の法的根拠が基礎付けられ、沖縄の復帰後は公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項により使用されてきたところ、右接収及び右使用の根拠法令は、前記(一)(3)〈1〉に述べるとおり、国際法又は憲法に違反する。

そして、本件使用認定処分は、右違法な使用状態を解消せず、それを実質的に追認し、承継するものであるうえ、約四〇年間という長期間の所有権行使の制限にもかかわらず、引き続き強制使用をなすことは、所有権侵奪を実質的に意味するものとして、「適正」とはいい難い。

〈2〉 「合理的」という要件の欠如

(ア) 水源涵養地としての使用の合理性

本件一土地は、駐留軍の用に供するよりも、水源涵養地として原告の使用に供することが公共の福祉に寄与するものとして「合理的」である。

すなわち、本件一土地は地下水脈を通じ青小堀水源に連なっているので、原告は、昭和八年以降、右水源から取水した源水を上水道として市民に供給しているところ、原告は、本件一土地を水質保全の必要上水源涵養地として確保してきた。そして、水質保全は、市民の健康、生命に直接関わる問題であるところ、青堀水源は、昭和四五年ころから本件飛行場施設から流出した油類により汚染され始め、同四六年二月二四日には、取水不能に至ったこともある。

したがって、本件一土地は、駐留軍の管理に委ねるよりも原告が水源涵養地として使用する方が「合理的」である。

(イ) 基地被害

本件飛行場施設は、騒音公害のみならず、航空機墜落の危険を常に内包する等の基地被害を発生させているので、このような本件飛行場施設の一部として本件一土地を使用することは、公共の福祉を阻害するものとして「合理的」とはいえない。

すなわち、本件飛行場施設の周辺には約三万人もの住民が居住しているところ、本件飛行場施設は、昼夜を分かたぬ軍用機の離着陸に伴う爆音により、深刻な被害を周辺住民に与え、昭和五六年七月に那覇防衛施設局が指定した本件飛行場施設周辺の爆音第一種区域内の世帯数は四七四〇世帯にも及んでいる。

また、本件飛行場施設所属の航空機は、昭和四七年から同五三年までの間に一〇回の墜落事故を起こし、不時着や緊急着陸等を含めると、航空機に関する事故は三九件に及んでおり、万一、本件飛行場施設周辺の住民居住地域へ航空機が墜落などすれば、大惨事となる危険性が常に存在している。

よって、これらの基地被害を発生させる本件飛行場施設の一部として本件一土地を提供することは「合理的」な土地使用とはいえない。

(三) 本件二土地についての本件使用認定処分の違法性について

(1) 「駐留軍の用に供する」という要件の欠如

本件二土地は、那覇港湾施設(以下「本件港湾施設」という。)の敷地の一部であるが、本件港湾施設は、中東紛争のための米軍の拠点となっている。

安保条約六条によれば、駐留軍の駐留目的は、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」であるところ、我が国政府統一解釈は、「極東」区域への武力攻撃や脅威に対処するための米軍の行動範囲は必ずしも「極東」区域に限定されないとする。しかし、右解釈は、〈1〉駐留軍の行動範囲を制限しえないこととなり、安保条約上限定された駐留目的の地理的限界を無意味ならしめること、〈2〉安保条約の駐留目的に関する条項は、朝鮮動乱のような事件が、極東の他の地点で発生した場合に駐留軍を使用できることを明らかにしておくために規定されたという立法経緯、〈3〉駐留軍の行動区域が拡大されればされるほど、我が国にある駐留軍の施設及び区域並びに我が国自体が攻撃の対象となり、我が国の安全が脅かされる可能性はむしろ増大すること等に鑑みれば、不当であり、米軍の前記行動範囲は、「極東」に限定されると解すべきものである。

そして、我が国政府統一解釈によれば、「極東」の区域は、大体において「日本国及びその周辺地域並びにフィリピン以北」とされており、中東は「極東」には含まれない。

したがって、米軍が本件港湾施設を中東紛争のための拠点とするのは、駐留軍の駐留目的を逸脱しており、よって、本件使用認定処分は、駐留軍用地特措法三条所定の「駐留軍の用に供する」という要件を欠くものといわなければならない。

(2) 「必要とする場合」という要件の欠如

〈1〉 代替性の存在

本件港湾施設については、本件使用認定処分がされる一一年前の昭和四九年に開催された第一五回日米安全保障協議委員会において、その移設条件付全面返還が合意された。このことは、本件港湾施設の機能、役割を他の施設に集約することができ、代替しうることを意味している。したがって、代替性の存する本件二土地について使用の必要性が存しないことは明白である。

〈2〉 客観的必要性の不存在

本件港湾施設内の船舶修理工場及びハーバーマスター室は、本件使用認定処分以前から閉鎖されたままの状態であり、本件港湾施設は、遊休施設と化していたのであるから、本件二土地を使用する客観的必要性は全く存しない。

(3) 「適正且つ合理的」という要件の欠如

〈1〉 「適正」という要件の欠如

本件港湾施設は、昭和二〇年に米軍の占領と同時に接収され、その後布告第二六号により米軍使用の法的根拠が基礎付けられ、沖縄の復帰後は公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項により使用されてきたところ、右接収及び右使用の根拠法令は、前記(一)(3)〈1〉に述べるとおり、国際法又は憲法に違反する。

このように、本件二土地は、本件使用認定処分がされる時点で既に長期間にわたり、特に沖縄の復帰以降は被告自らの手によって、違法な使用状態が形成されてきた。したがって、その違法状態を解消せずに、しかもその違法状態を自ら作出した被告自身の手によって、引き続き強制使用をなすことは、使用を開始するに至る手続き自体が法的正義に反するものとして「適正」とはいえない。

また、昭和二〇年以降約四〇年間という長期間にわたって所有者である原告の所有権行使が制限されてきた本件二土地に対し、さらに本件使用認定処分をすることは、所有権の機能回復の機会を剥奪する実質的な所有権侵奪であり、「適正」な土地利用とは認められない。

〈2〉 「合理的」という要件の欠如

本件港湾施設は、那覇港の一部である那覇埠頭区の南岸に位置しているが、過密状態にある那覇港の状況に鑑みて、駐留軍の用に供するよりも、原告が商港、漁港、観光港として利用することが公共の福祉を増進することになって「合理的」である。

すなわち、沖縄県の県民生活及び社会経済活動に必要な物資の移出入は、その大部分が海上交通に依存しているところ、那覇埠頭区、泊埠頭区及び那覇新港埠頭区からなる那覇港は、背後に、沖縄県の中心集積地である那覇市及び浦添市を擁する交通の要衝に位置した県下第一の商港であり、従来から本土、先島諸島及び外国への定期航路の拠点として貨客輸送における重要な役割を担ってきたが、社会経済活動の拡大発展に伴い、その役割は益々重要視されている。これに対し、那覇港の現状は、係留施設及び港湾施設用地の不足により、貨客の円滑な流動が阻害されている。そこで、原告は、その打開策として、昭和四九年六月、港湾法に基づき、運輸省港湾審議会の承認を得て、那覇港港湾計画を策定し、港湾施設の整備拡張を図るため、那覇新港埠頭区を増設し、浦添埠頭区を新設する等の計画を立案して対応してきた。

しかし、右計画が実施段階にあるにもかかわらず、那覇港の過密状態は依然として解消されないままである。因みに、港湾施設の貨物取扱量は、バース一メートル当たり年間一〇〇〇トンが標準値とされているところ、那覇港においては、昭和五七年度から同六〇年度の間のバース一メートル当たりの年間貨物取扱量は、約一九七二・七トンないし約二一六六・七トンであり、標準値の二倍を超えている。また、右計画に基づき、昭和五四年度までに支出された費用は金四二四億円に達し、同年度時点で計画達成までにさらに金一二四四億円という莫大な費用の支出が見込まれている。なお、本件港湾施設は、バース総延長約二五四五メートル、うち水深七・五メートル以上の大型バース総延長約一一五二メートルを有しているが、仮に、本件港湾施設を原告が使用していたとすれば、バース一メートル当たりの年間貨物取扱量を一〇〇〇トンとして、年間約二五四万トンの貨物の取扱いが可能となり、那覇港における昭和五七年度から同六〇年度の間のバース一メートル当たりの年間貨物取扱量は、約一一九六・四トンないし約一三一四・一トンとなり、標準値に近づくことになる。

また、那覇港においては、漁船増加に伴い、現在の港湾施設だけでは対応できず、離島航路施設内にも漁船が進入し、同施設の本来の機能に支障をきたしているところ、那覇港には、新たに漁港を設置するような場所的余裕は全く存しない。

さらに、観光立県を掲げる沖縄県においては、ヨットハーバーやレジャー用ボート施設の要求の声が高まっているところ、既存の施設ではこれに対応することはできない。

そこで、原告は、本件港湾施設が返還されることを前提に、昭和五三年三月、その跡地利用計画を策定したが、それによると、本件港湾施設内に漁港施設、海洋レクリエーション基地の導入が予定され、さらには、産業振興の面から自由貿易センター、工芸関連施設等の設置も計画され、その利用が大いに期待されている。

右のとおり、本件港湾施設は、駐留軍の用に供するよりも、原告が商港等として利用することが公共の福祉を増進することになって「合理的」である。

7  要約

以上のとおり、本件各使用認定処分は違憲ないし違法であるから、原告は被告に対し、本件各使用認定処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実は認める。

3 同3ないし同6の主張のうち、本件各使用認定処分が違憲ないし違法である旨の主張はすべて争う。

(被告の主張)

1 安保条約の違憲性の主張(請求原因3)に対する反論

(一) 裁判所の司法審査権の限界について

原告は、安保条約の違憲性を理由に、駐留軍用地特措法を違憲無効とし、本件各使用認定処分も違憲無効と主張するが、原告の右主張は、裁判所に対し、条約の内容に関する違法適合性の有無という司法審査権の限界を超える事項について判断を求めるものであり、失当である。

すなわち、憲法八一条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定し、法令の憲法適合性の判断権(違憲立法審査権)は、最高裁判所を頂点とする司法裁判所に与えられていることが明らかである。しかし、国家行為のうち、国家の基本的な統治権に関わるような高度の政治性を有する行為については、司法権の担い手ではあるが、政治責任の担い手ではない裁判所が、一定の制約のある訴訟手続の中で解決することは適当ではないというべきである。そこで、司法権の性質と構造を他の二権たる立法権と行政権の存在と関連させて考え、その間のチェック・アンド・バランスの作用を考慮するならば、国家機関の行為のうち、高度の政治性を有する行為については、裁判所の司法審査の対象から排除されるものと解すべきである。

これを本件についてみると、原告がその違憲無効を主張する安保条約は、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものであるから、その内容の違憲性は司法審査の対象とはなりえないものである。

(二) 安保条約の合憲性について

前記のとおり、裁判所は、本訴において安保条約が憲法に適合することを前提にして判断を進めなければならないが、仮にその内容に立ち入って検討を加えてみても、安保条約の憲法適合性には疑念を差しはさむ余地がない。

(1) 安保条約六条の合憲性について

〈1〉 米軍駐留の憲法前文適合性

原告は、米軍の我が国における駐留が平和的生存権等を掲げた憲法前文に違反する旨主張する。

しかしながら、およそ国家が独立国である以上、その主権の一部として自衛権を有することは自明の理である。自衛権は、国家又は国民に対する外部からの急迫不正の侵害に対し、これを排除するのに他に適当な手段がない場合、その国家が必要最小限度で実力を行使する権利であり、国家がその存立の基礎に関わる重要な基本権を自ら放棄することは、今日に至るまでの国際情勢の下において、およそ考えられないことである。

我が憲法にいう平和主義は、無防備、無抵抗を定めたものでは決してない。憲法前文は、日本国民が平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めることを願い、全世界の国民とともにひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認している。このことは、憲法が国家の存立と国民の生存を維持することを根本の目的とするものであることを示している。我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとることは、国家の最も本源的な任務と権能の一つであるといわなければならない。

そして、我が国が自国の平和と安全を維持するため、どのような方法によって自衛をするかについての具体的な方法の選択は、国民の負託を受けた政治部門が我が国の置かれた諸般の情勢を考慮して決定すべき高度に政治的な事柄である。我が国が米国との間に安保条約を締結し、米軍による安全保障を求めているのは、右の具体的方法の一つである。

したがって、米軍の我が国における駐留が憲法前文にいう平和的生存権を侵害する旨の原告の前記主張は失当である。

〈2〉 米軍駐留の憲法九条二項前段適合性

原告は、在日米軍は憲法九条二項前段が保持を禁止する戦力に該当するので、かかる米軍の駐留を認める安保条約六条は憲法の右条項に違反する旨主張する。

しかしながら、憲法九条二項前段が保持を禁止した戦力とは、我が国が主体となってこれに指揮権、管理権を行使しうる戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊はたとえそれが我が国に駐留するとしても、右条項にいう戦力に該当しない。

そして、安保条約六条によって駐留が認められる在日米軍は外国の軍隊であって、我が国自体の戦力ではなく、また、在日米軍に対する指揮権及び管理権もすべて米国に存し、我が国に右指揮権、管理権の存しないことは安保条約及び地位協定上明らかである。

したがって、在日米軍が憲法九条二項前段で保持を禁じられた戦力に該当することを前提とする原告の右主張は失当である。

〈3〉 米軍駐留の憲法九条二項後段適合性

原告は、安保条約六条が他国の手によって交戦権を行使させようというもので、交戦権を否認した憲法九条二項後段に違反する旨主張する。

しかしながら、前記〈2〉で述べたのと同様に、憲法九条二項後段が否認するのは、我が国自身の交戦権の行使であり、右条項は外国の軍隊に関するものではないから、原告の右主張も失当である。

〈4〉 米軍駐留の憲法九八条二項適合性

原告は、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」という目的の下に米軍の駐留を認めることは、国際連合憲章五一条に違反し憲法九八条二項に抵触する旨主張する。

しかしながら、国際連合憲章五一条の文理に照らすと、専ら侵略を防止することにより、我が国の平和と安全の維持及びこれと密接な関連のある極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという目的のために認められる米軍の駐留が右憲章の規定に違反する余地のないことは明らかであるから、原告の右主張も失当である。

(2) 安保条約三条の合憲性について

原告は、安保条約三条が我が国に軍事力を発展させることを義務付けるものであり、一切の戦力の保持を禁止した憲法九条二項前段に違反する旨主張する。

しかしながら、安保条約三条は、日米両国が個別的に及び相互に協力して、自助及び相互援助により武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を維持、発展させる旨規定しているところ、同条は、かかる防衛能力の維持発展の義務を「憲法上の規定に従うことを条件として」のみ定めているのである。したがって、右条項自体としては、憲法に違反するような軍備の維持促進を我が国に義務付けたものということはできないから、右条項は違憲無効なものということはできず、原告の右主張も失当である。

(3) 安保条約五条の合憲性について

原告は、安保条約五条前段が日米共同作戦を相互に義務付け、戦争を容認するものであり、憲法九条に違反する旨主張する。

しかしながら、安保条約五条前段において義務付けられている行動は、我が国の施政の下にある領域という限られた地域内において日米両国のいずれかに加えられた武力攻撃に対処するための防衛的性格のものである。また、右の点に、〈1〉我が国の領域内にある米軍に対する武力攻撃は法的にも実体的にも我が国に対する武力攻撃にほかならないのであるから、かかる攻撃に対抗するための我が国の行動は、まさに我が国自身の個別的自衛権の行使にほかならないこと、〈2〉我が国が義務付けられる行動は、憲法上の規定及び手続に従うものに限られていること、〈3〉右防衛措置自体、安保条約五条後段の規定からも明らかなように、国際連合安全保障理事会が必要な措置をとるまでの暫定的なものにすぎないこと等を併せ考察すれば、安保条約五条前段は、憲法九条に違反するということはできず、原告の右主張も失当である。

2 駐留軍用地特措法の違憲性の主張(請求原因4)に対する反論

(一) 憲法前文、九条適合性

原告は、駐留軍用地特措法は、安保条約及び地位協定の内容を実施するために定められたもので、これらと不可分一体の関係にあるところ、安保条約が憲法前文、九条に違反して無効である以上、駐留軍用地特措法も当然に違憲無効である旨主張する。

しかしながら、およそ法律が憲法に違反して無効であるか否かは、その法律自体の制定手続又は規定内容が憲法に違反するか否かによって決められるもので、法律の効力の有無は、その制定の原因ないし契機となった条約、協定等の効力の有無とは全く関係がない。そして、駐留軍用地特措法は、地位協定の実施に伴って制定された法律であるが、地位協定そのものを規定の内容としたり、あるいはこれをそのまま国内法として適用する旨を定めたりするものではない。すなわち、地位協定は、駐留軍用地特措法制定の契機となったにすぎないものであるから、駐留軍用地特措法の効力が安保条約及び地位協定の効力の有無によって影響を受ける余地はない。

また、右の点をさておいても、前記のとおり、安保条約は、憲法前文、九条に違反するものではないので、原告の右主張は失当である。

(二) 憲法二九条三項適合性

原告は、駐留軍用地特措法は、「駐留軍の用に供する」という軍事目的のために、また、我が国の安全とは関係のない「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」に駐留する米軍の用に供するという目的のために、国民の私有財産を使用・収用するものであり、「公共のために」私有財産を用いる場合に当たらないから、憲法二九条三項に違反する旨主張する。

しかしながら、安保条約六条に基づく米軍の駐留が憲法前文、九条に違反するものでないことは前記1(二)に記載のとおりであるところ、我が国が米軍の駐留を許すことは、我が国が国家として遵守すべき国際法上の義務であり、また、その目的は、専ら我が国及び我が国を含めた極東の平和と安全を維持し、再び戦争の惨禍が起こらないようにすることにある。

そして、極東における駐留軍の行動も、我が国の憲法の基調とする平和主義と国際協調主義に沿いながら我が国の平和と安全の維持を図るという目的のためのものであるから、安保条約に基づく米軍の駐留は、我が国の生存と安全の維持という国家的公共の福祉に奉仕するものであることは明らかであって、そのための駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用は、まさに憲法二九条三項の「公共のために」私有財産を用いる場合にほかならない。

よって、原告の右主張は失当である。

(三) 憲法三一条適合性

(1) 原告は、駐留軍用地特措法が、土地収用法に比して手続が著しく簡略化されており、使用・収用される土地所有者等の権利の保護に欠けるから、憲法三一条に違反して無効である旨主張する。

(2) しかしながら、憲法三一条は、本来刑罰権の発動を目的とする刑事手続の適正を保障するもので、純粋な行政手続にも適用があることを当然の前提とする原告の右主張には多大の疑問がある。

(3) 駐留軍用地特措法では、原告主張のように、使用・収用の認定の申請に、土地収用法一八条に定める事業計画書若しくはそれに相当する使用・収用の内容を具体的に説明した書類の添付は要求されていないが、それは、駐留軍用地特措法では、使用・収用者は国のみであり、使用・収用の目的が駐留軍の用に供するという条約上の義務履行にあることから、土地収用法二〇条一号、二号及び四号の各要件が当然に充足されるためである。そして、駐留軍用地特措法においても、四条一項において、使用・収用の認定の申請をしようとするときは、その他政令で定める書類を添付することとされており、右申請に当たっては、使用・収用しようとする土地等の調書及び図面等を作成し添付するのであるから、土地所有者等の保護に欠けるところはない。

(4) 原告は、駐留軍用地特措法では、土地収用法二四条の関係書類の縦覧、同法二五条の利害関係人の意見の聴取の各規定に相当する手続の定めがない旨主張するが、右手続に相当するものとして駐留軍用地特措法は、四条一項において、防衛施設局長が予め土地等の所有者又は関係人の意見書を徴することとしているから、土地所有者等の権利保護の点では、土地収用法の手続に比して劣るものではない。

(5) 原告は、駐留軍用地特措法では、土地収用法二三条に定める公聴会の制度を省略している旨主張するが、同法においても公聴会の開催は常に義務付けられているものではないから、公聴会制度の規定を欠くことをもって駐留軍用地特措法の手続が土地収用法に比して土地所有者等の権利保護に欠けるものということはできない。

(6) したがって、駐留軍用地特措法が憲法三一条に違反する旨の原告の前記主張は失当である。

3 本件各使用認定処分の違憲性の主張(請求原因5)に対する反論

(一) 憲法二九条三項適合性

原告は、本件各土地を米軍基地の用に供することは、「公共のために用ひる」とはいえないから、本件各使用認定処分は憲法二九条三項に違反する旨主張する。

しかしながら、我が国は、安保条約に明示されているように、我が国の安全とこれに重大な影響のある極東における平和と安全の維持のために米軍の駐留を認めているものであり、原告主張のような侵略のための米軍の駐留、施設及び区域の使用を認めているものではない。また、我が国が核武装化しないことはもとより、駐留軍にも我が国領土内に核兵器を持ち込ませないものとしており、原告の右主張は失当である。

(二) 憲法三一条適合性

原告は、本件各使用認定処分には、その使用を公正妥当ならしめる機関が存在せず、憲法三一条に違反する旨主張する。

しかしながら、原告の右主張は、土地収用法による収用委員会に、駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用・収用を審理、裁決する権限がないことを前提として、本件各使用認定処分の無効性を論ずるものであるが、そもそも収用委員会は、本件各使用認定処分が行われた後に、国による使用・収用の裁決の申請があって初めて手続に関与するものであり、本件各使用認定処分自体に関する手続、判断の過程においては、何らこれに関与するものではなく、収用委員会に如何なる権限が存するかは本件各使用認定処分の適否とは関係のない事柄であるから、原告の右主張は、その前提において誤ったものである。

また、駐留軍用地特措法は、駐留軍の用に供する土地等の使用・収用に関して、使用・収用の認定に関する書類その他若干の事項について土地収用法と異なる別段の定めをし、その余の事項については、すべて土地収用法の規定を適用する建前をとっているのであり、使用・収用の裁決の申請及びこれに対する審理裁決の機関についても、駐留軍用地特措法一四条は、起業者は所定の期間内に限り使用・収用をしようとする土地等が所在する都道府県の収用委員会に裁決を申請することができる旨規定した土地収用法三九条を適用するほか、収用委員会の審理裁決に関する同法四〇条ないし五〇条の規定をすべて適用しているのである。

したがって、駐留軍用地特措法は、同法に基づく土地等の使用・収用についても、土地収用法に基づいて設置、組織された既存の収用委員会をして審理裁決させる趣旨であることは明らかであり、この点からも原告の前記主張は失当である。

4 本件各使用認定処分の違法性の主張(請求原因6)に対する反論

(一) 駐留軍用地特措法三条の解釈について

(1) 駐留軍用地特措法三条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」、すなわち、安保条約六条に定める目的を遂行するため駐留軍が土地等を客観的に必要としていると認められる場合において、土地等を駐留軍の用に供することが「適正且つ合理的」であることを、土地等の使用の要件としている。

この「適正且つ合理的」であるとは、原告主張のように「適正」と「合理的」とに分断して解釈すべきではなく、両者を併せて、土地等を駐留軍の用に供する必要性が高いこと及び土地等を駐留軍の用に供することによる公共の利益がこれを駐留軍の用に供することによって失われる利益に優っていることの意と解すべきである。

(2) なお、原告は、本件各土地の従前の使用状況に違法性が認められる場合には、これに対する本件各使用認定処分は「適正」とはいえない旨主張する。

しかしながら、駐留軍用地特措法は、沖縄の復帰前における米軍の土地使用又は復帰後における公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項に基づく駐留軍用地の使用を継承しようとするものではなく、また、本件各使用認定処分の要件として本件各土地の過去における使用関係の適否が問題となるものでもないから、原告主張のような本件各土地の過去の使用経緯及びその根拠法令の効力等は、本訴の審理の対象となる余地はないというべきであり、原告の右主張は失当である。

さらに、次の点においても、原告の主張は失当である。

〈1〉 沖縄の復帰前における米軍の土地の接収、使用について

原告は、沖縄の復帰前における、米軍の土地の接収、使用の根拠法令が国際法又は憲法に違反する旨主張するが、米軍の土地接収、使用の根拠となった布告や布令は、我が国の施政権が及ばない時期に米国により発布、施行されたものであり、我が国の憲法秩序の範囲外にあったものであるから、その適否を論ずる余地はない。

〈2〉 公用地暫定使用法について

原告は、公用地暫定使用法は、沖縄県民を本土の住民と差別して取り扱うものであるから、憲法一四条に違反する旨主張する。

しかしながら、公用地暫定使用法は、沖縄の復帰に伴い、沖縄における公用地等に対する暫定的な使用権の設定を目的とする地域的な特別立法であり、適用対象である土地等に権利を有する者は沖縄県民に限られるものではなく、同法の適用を受ける者と他の都道府県に所在する土地等に権利を有する者との間に差異が出てくるにすぎないのであって、同法は沖縄県民を本土の住民と差別して取り扱うものではないので、原告の右主張は失当である。

また、原告は、公用地暫定使用法には、事前の手続規定を欠いており、憲法三一条から導かれる行政における適正手続の原理にもとり、憲法二九条の定める財産権の保障に対する侵害となる旨主張する。

しかしながら、公用地暫定使用法のような暫定使用の法律は、ある法秩序の支配下に置かれていた地域が他の法秩序の支配下に移行する際、国等が公用地等の使用を継続する必要があるにもかかわらず、契約等による使用権を取得するいとまがない場合に、その間隙を補充するため制定せざるをえないものであるから、原告の右主張は失当である。

〈3〉 地籍明確化法附則六項について

原告は、地籍明確化法附則六項により、消滅した暫定使用権を延長することはできない旨主張する。

たしかに、地籍明確化法附則六項は、一旦消滅した暫定使用権を復活させるものではある。しかし、(ア)国において対象土地を引き続き従前と同じ公の目的のために使用する必要があること、(イ)改正の前後を通じ暫定使用権の内容が同一であること、(ウ)当初の暫定使用権の消滅からその復活まで四日間しか経過していないこと、(エ)しかもその間駐留軍が対象土地に対する現実の占有を続け、現地の占有状況に何ら変更が生じなかったこと等を考慮すれば、地籍明確化法附則六項による暫定使用権の復活は、これを不当とするような事情は格別存せず、立法機関である国会の裁量の範囲内にある法制定行為に基づくものというべきである。また、一旦消滅した権利がその後復活する現象は決して他に類例をみない特異なものではない(民法六一九条一項、六二九条一項、借地法四条一項、六条一項、借家法二条二項等参照)。

よって、原告の右主張は失当である。

(3) また、原告は、駐留軍用地特措法三条所定の「合理的」という要件の充足性の有無の判断に際し、本件各土地の所有者たる原告の土地利用計画の社会的、公益的意義を考慮すべきである旨主張する。

しかしながら、都市計画は、都市の健全な発展と秩序ある整備を目的として、適正な制限の下に土地の合理的な利用を図ろうとするものであるが、その計画内容は、他の公益上の必要に基づく土地利用と整合性を持ち、調和のとれたものでなければならない。そして、駐留軍は、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」、安保条約に基づき我が国に駐留するものである。したがって、原告の土地利用計画のみを強調し、その実現の障害となる米軍基地は存在を許されないものとするのは、到底正当な議論とはいえない。

(4) さらに、原告は、駐留軍用地特措法三条所定の「合理的」という要件の充足性の有無の判断に際し、爆音公害等の基地被害を考慮すべきである旨主張するが、これらは、その判断要素となるものではない。

(5) そして、土地等を駐留軍の用に供することが「適正且つ合理的」であることの判断は、その性質上政策的かつ技術的なものであるから、担当行政庁に一定の裁量が認められるものであり、担当行政庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り、駐留軍用地特措法五条に係る処分が違法になるものと解すべきである。

(二) 本件各使用認定処分の適法性

(1) 本件各使用認定処分は、多数の筆数の土地が集まって構成された駐留軍用地のうちの極めてわずかな部分の土地についてなされたものであり、駐留軍用地の大部分は、使用認定処分の対象外の土地であって、国が土地所有者との間に賃貸借契約を締結し、使用権原を得て駐留軍用地として提供しているものであり、駐留軍用地は、その性質上一体不可分のものとして、駐留軍用地全体が当該駐留軍施設及び区域として機能している。したがって、駐留軍用地とする必要性等は、使用認定処分の対象であるか否かとは関わりなく、当該駐留軍用地全体として判断されるべきものであり、本件各使用認定処分の適法性についても、本件各土地を含む当該駐留軍用地が一般的に駐留軍用地特措法三条の要件を充足しているか否かの見地から判断することが可能であり、かつ相当である。

(2) そして、我が国が駐留軍用地を提供するに当たり考慮すべき要素として、以下のものが挙げられる。

〈1〉 駐留軍用地提供の高度の公益性

我が国は、安保条約六条により、米国に対し、我が国の施設及び区域を提供する責務を負担している。この責務の履行は、条約上の責務の履行としてそれ自体極めて公益性の高いものであるうえ、右責務は「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」のものであるから、右責務の履行によってもたらされるのは、我が国の安全と国際平和という公益であり、駐留軍用地の提供はいずれの面からも極めて公益性が高いものである。

〈2〉 実現可能性等

駐留軍用地の候補として数か所の土地が考えられる場合、どの土地に、どの程度の規模の施設及び区域を設けるかを決定するに際しては、土地所有者ないし住民の協力が得られやすいか、施設及び区域の設置、管理に要する費用がどの程度かといった実現についての可能性ないし容易性にかかる事情が考慮されることとなる。

そして、駐留軍用地の提供は、右〈1〉に記載のとおり極めて公共性が高い反面、駐留軍用地特措法が適用されると土地所有権の行使に制限が課されるため、国は、できるだけ土地所有者との間で賃貸借契約を締結して使用権原の取得に努力している。それゆえ、駐留軍用地の提供に際しては、土地所有者との間の賃貸借契約に基づく使用権原の取得の可能な土地がどの程度あるかという要素が考慮されることになる。

なお、現に駐留軍用地として提供されている土地であっても、不必要ないし不相当となる可能性のある部分については、国は、返還のための最大限の努力をしている。

〈3〉 沖縄における駐留軍用地提供に至る経緯

米国は、戦後、極東における沖縄の軍事的戦略的価値に着眼し、沖縄に米軍基地を建設して、長期的に継続使用する強い意向を有していたが、右のような意向は今日までほぼ一貫している。

我が国政府は、昭和四〇年ころから沖縄の復帰の実現に向けて米国政府との折衝を開始したが、米国政府は、これに前向きで取り組む姿勢を示す一方で、沖縄に有する米軍基地の継続使用が復帰のための不可欠の前提となる旨表明していたところ、我が国政府も、沖縄における米軍基地の存続が我が国のみならず極東における安全のために重要であると認識していた。

「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(昭和四七年三月二一日条約第二号)」(以下「沖縄返還協定」という。)は、右のような経緯を受けて成立したものである。そして、沖縄返還協定三条一項に、我が国が安保条約及びこれに関する取極に従い同協定の効力発生の日に米国に対し沖縄における施設及び区域の使用を許す旨規定されているのも、以上のような背景に由来するものである。また、沖縄の復帰に際し、当時の我が国の佐藤内閣総理大臣が、沖縄の米軍施設及び区域を復帰後できる限り整理縮小することの必要な理由を説明したのに対し、当時の米国のニクソン大統領も、日米両国が施設及び区域の調整を行うに当たってこれらの要素は十分に考慮にいれられるものであることを答えていた。

なお、沖縄の復帰に際し、従前から存在した米軍施設及び区域の復帰後のあり方について、日米両国間で、昭和四六年六月一七日、「了解覚書」が作成され、従前の各個の施設及び区域は、駐留軍用地として提供するもの(同覚書別紙A表)、自衛隊や運輸省に引き継ぐもの(同覚書別紙B表)、沖縄の復帰の際又はその前にその全部又は一部が使用を解除されるもの(同覚書別紙C表)の三種類に区分された。右A表に掲げられた施設及び区域は、日米両国が別段の合意をしない限り、沖縄の復帰の日から駐留軍施設及び区域として提供することを日米合同委員会において合意する用意があると了解されたものであるが、右B表及びC表に掲げられた施設及び区域はすべて駐留軍用地とはならなかったものである。そして、本件一土地を含む本件飛行場施設及び本件二土地を含む本件港湾施設は、いずれも右A表に組み入れられるところとなった。なお、我が国は、右A表に掲げられた施設及び区域についても、沖縄の復帰に際しての日米両国の合意の精神にのっとり、施設及び区域の整理縮小のために、日米合同委員会及び日米安全保障協議委員会の場を通じて米国と交渉し、現在までに返還された施設及び区域の面積は、別紙「沖縄における駐留軍施設及び区域の年度別返還状況」に記載のとおりとなっている。

以上のように、沖縄に一定範囲の駐留軍用地を確保することは、日米両国にとって沖縄の復帰の際の基本的な政策であった。そして、日米両国とも、本件各使用認定処分当時のみならず今日においても、右政策を変わらずに維持しているのである。したがって、右経緯から明らかなように、沖縄における駐留軍用地の提供は、日米両国の基本的な政策に合致し、かつ、我が国の安全と国際平和に資するものであって、極めて公益性が高いものである。

〈4〉 沖縄の地理的条件

沖縄は、複数の島々からなり、アジア大陸に近く、日本列島の西南端に位置している。そのため、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」という安保条約六条の目的を達成するために駐留軍施設及び区域を設けるうえで、沖縄は優れた地理的条件を充たしていることは明らかであるところ、右〈3〉に記載のとおり、それが我が国政府の認識であり、基本政策の前提となっている。

〈5〉 財政的負担

従前駐留軍用地として提供されていた土地をそのまま駐留軍用地として提供すれば、主として施設及び区域の維持費の負担を要するのみであるが、新たに土地を確保して駐留軍用地として提供するとなれば、維持費のほかに、新しい土地の確保のための経費のみならず施設及び区域の建設や設置費が必要になるので、積算するまでもなく、両者は財政的負担において大きな差異がある。

したがって、従前駐留軍用地として提供していた土地に代えて新たに確保した土地を提供するのは、右のように大きな財政的負担の相違を容認するに足りる公益又は私益を得られる場合でなければならない。しかしながら、新たな土地を確保して駐留軍用地として提供することにはそれ程の公益又は私益を見出すことができないし、そもそも、沖縄において駐留軍用地のための新しい土地を確保することは非常に困難を伴うことも明白である。

〈6〉 賃貸借契約締結者の存在

本件各使用認定処分当時、従前の沖縄の全駐留軍用地中の要契約土地総面積中、約九九・六パーセントの土地の所有者は国との賃貸借契約を締結していて、残るわずか約〇・四パーセントの土地の所有者が国との賃貸借契約の締結を拒否していた。したがって、右契約締結拒否者に対して駐留軍用地特措法が適用されれば、賃貸借契約締結者の土地と併せて従前の駐留軍用地をそのまま提供できる状況にあった。

駐留軍用地特措法の適用をできるだけ回避すべきことはいうまでもないことであるが、新たに確保する土地につき右のような高い割合で国と土地所有者との間で賃貸借契約が締結されることは期待できないと考えるべきであり、また、新たな土地を確保して駐留軍用地として提供することにも、駐留軍用地特措法の適用対象が増えることによる種々の不利益を回復するだけの公益又は私益を見出すことはできない。

〈7〉 駐留軍用地提供により失われる利益

駐留軍用地特措法の適用を受け駐留軍用地として使用されると、その土地所有者は、補償金を受領することによって収益に与ることはできるが、土地の利用は長期間にわたって制限され、現実には譲渡等の処分も困難になり、所有権が大きく制約されるものである。したがって、駐留軍用地提供に際しては、駐留軍用地特措法の適用の対象となる土地及びその所有者ができる限り少なくなるよう配慮されなければならない。そのためには、第一に、駐留軍用地として提供する面積を少なくすること、第二に、国との間で賃貸借契約を締結する見込みの所有者が多い土地を駐留軍用地として提供することが重要である。前者の点については、前記〈2〉に記載のとおり、我が国は、沖縄における駐留軍施設及び区域の整理縮小のため努力しており、後者の点については、右〈6〉に記載のとおり、従前駐留軍用地として提供されていた土地をそのまま提供することが優れていることは明らかである。

なお、駐留軍用地特措法の適用の対象となった土地の所有者には、法令に基づき当該土地を使用収益した場合に得られる経済的利益に見合う正当な補償金が支払われることになっている(同法一四条一項、土地収用法九五条一項参照)ので、当該所有者は駐留軍用地特措法の適用により経済的側面で損失を受けることはない。

(3) 右(2)の諸点を総合考慮すると、我が国政府が沖縄における駐留軍施設及び区域の整理縮小のための努力を怠らないことを前提として、従前駐留軍用地として提供していた土地をそのまま提供することが最も合理的であるということができるところ、本件各土地はいずれも従前提供されていた駐留軍用地に含まれているので、本件各使用認定処分は適法である。

(三) 本件一土地についての本件使用認定処分の適法性

(1) 本件飛行場施設の概要

本件飛行場施設は、宜野湾市台地上に所在し、別紙図面一に表示のように、北東から南西方向に伸びる約二八〇〇メートルの滑走路を中心とする長さ約四四〇〇メートル、幅約一六〇〇メートルの、ほぼ楕円形の形状をした施設で、その総面積は約四八三万三〇〇〇平方メートルである。

本件飛行場施設は、戦後米軍の飛行場として使用が開始され、沖縄の復帰に当たり、地位協定二条一項に基づく施設及び区域として飛行場に使用する目的で、駐留軍の用に供され、現在に至っている。

本件飛行場施設は、本件使用認定処分の前から現在まで、海兵隊の輸送機、給油機及びヘリコプター等の基地として使用され、そのための飛行場施設、管理事務所、隊舎、修理工場及び倉庫等が設置されている。

(2) 本件飛行場施設用地の使用権原

本件飛行場施設の敷地の所有主体別の内訳は、約九三パーセントが民有地、約一パーセントが公有地、約六パーセントが国有地である。

このため、国有地以外の土地について、国は、沖縄の復帰に際し、本件飛行場施設用地を駐留軍の用に供するため、土地所有者と交渉し、できる限り、賃貸借契約を締結することにより使用権原を取得することに努めた。その結果、復帰時の本件飛行場施設の要契約件数一七〇六件中一六五五件については賃貸借契約の締結ができたが、本件一土地を含む残り五一件については契約を締結することができず、国は、それらの土地を、公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項に基づき暫定使用してきた。

国は右暫定使用の期間中においても、契約により使用権原を取得することに努め、土地所有者と再三にわたり契約交渉を重ねてきた結果、逐次賃貸借契約を締結し、その殆どの土地について使用権原を取得したが、なお契約締結に至らなかったものについては、駐留軍用地特措法により使用権原を取得し使用してきた。

しかし、その後も原告を含む(八筆)については、契約の締結に応じないため、駐留軍用地特措法に基づく使用権原がなくなる昭和六二年五月一五日以降の使用権原を確保すべく、再度、駐留軍用地特措法に基づき使用認定処分をした。

本件一土地(二筆)は、右五件のうちの一件であり、その合計面積は、本件飛行場施設の敷地面積の約〇・〇八パーセントに当たる約四〇〇〇平方メートルである。そして、本件一土地は、別紙図面一中に記載の赤印部分に所在し、いずれも保安緩衝地帯用地として使用されている。また、本件一土地には深い洞窟があり、周辺の雨水等が自然にこれらの洞窟に流入して地下水源となる地形となっており、現在排水施設用地としても使用されている。

(3) 保安緩衝地帯の必要性

〈1〉 航空法は、航空に関する基本法であるが、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(以下「航空特例法」という。)は、駐留軍に関しては、若干の規定を除き航空法の規定の適用を除外する旨規定している。

このため、駐留軍は、航空機の離着陸の安全を確保するため、米国連邦航空規則中の軍用飛行場に関する規定に準拠して飛行場を使用している。

〈2〉 ところで、航空法二条五項は、航空機の離着陸に供される滑走路を含む矩形の土地を着陸帯としている。そして、航空法施行規則七五条二項は、着陸帯について、滑走路の長さにより等級を設け、同規則七九条一項三号は、着陸帯の等級によりその短辺の最小幅員を定めているところ、仮に、本件飛行場施設に航空法の適用があるとすれば、本件飛行場施設の滑走路の長さは約二八〇〇メートルであるから、着陸帯の等級はAで、その短辺の最小幅員は三〇〇メートルとなる。また、米国連邦航空規則においては、着陸帯の幅員は、従前の基準に従い主要な建設が行われた既設の基地を除いては、二〇〇〇フィート(約六〇九・六メートル)とされるが、本件飛行場施設は、従前の基準に従い主要な建設が行われた既設の基地に該当するものである。そして、従前の基準によれば、離着陸する航空機の型式により決まる滑走路の等級によって着陸帯の幅員が定められているところ、本件飛行場施設の滑走路は、離着陸する航空機であるC-一三〇の型式により、Bクラスとされるのであり、Bクラスの滑走路については、着陸帯の幅員は一五〇〇フィート(約四五七・二メートル)となる。

さらに、航空法二条九項は、着陸帯の外側上方へ勾配七分の一の傾斜面たる転移表面を設定し、また、同法二条八項は、飛行場の標点の垂直上方四五メートルの点を中点として半径四〇〇〇メートル以下で運輸省令で定める長さ(仮に、本件飛行場施設に航空法の適用があるとすれば、同法施行規則三条により四〇〇〇メートル)の円周で囲まれた水平面たる水平表面を設定している。そして、航空法四九条により、これらの表面の上に出る高さの物件の設置等が制限されている。これらの表面を設置する趣旨は、ひとえに、飛行場及びその周辺の空域において、離着陸時に航空機が着陸帯の中心から外れた場合等における安全を確保するために、航空機の運航に危険となる障害物を存在させないためである。以上は、水平面の高さが一五〇フィート(約四五・七メートル)、半径が七五〇〇フィート(約二二八六・〇メートル)である点を除き、米国連邦航空規則においても、ほぼ同じ内容であり、本件飛行場施設に米国連邦航空規則を適用すれば、本件一1土地は、着陸帯の長辺の外縁からの距離が約七五メートルであるので、転移表面下に位置し、約一一メートルの高度制限を受け、本件一2土地は、着陸帯の長辺の外縁からの距離が約三六五メートルであるので、水平表面下に位置し、約四五・七メートルの高度制限を受けることになる。

〈3〉 右のように、航空機の離着陸の安全を確保するためには、転移表面、水平表面という概念に基づく物件の高度制限が必要であるが、駐留軍の飛行場については、一般の飛行場と異なり、航空特例法により航空法四九条の適用が除外されているため、右高度制限に違反した物件が存在する場合にも、是正を求める法的根拠を有していないのである。

そこで、航空機の離着陸の安全を確保するためには、飛行場用地の提供に際し、必要とされる保安緩衝地帯につき使用権原を取得し、所有者の使用を制限せざるをえない。

〈4〉 そして、保安緩衝地帯として駐留軍飛行場の滑走路周辺のどの範囲の土地を確保するかについては、航空機の安全確保とも関連して広い技術的裁量の余地があるところ、国は、本件飛行場施設については、別紙図面一中に記載のA部分を保安緩衝地帯として確保する必要があるとの判断の下に、使用権原を取得しているものである。

(4) 本件飛行場施設の必要性

本件飛行場施設は、前記(1)に記載のとおり、沖縄における海兵隊の輸送機の基地等として使用されているところ、本件飛行場施設の現実の使用程度は、駐留軍の使用形態の変動により一定してはいないが、年間管制回数が平均約六万五〇〇〇回に達していること、及び、従前から本件使用認定処分時点までの駐留軍の使用実績やそれ以降の使用見込み等に照らすと、従前使用していたのと同程度の規模と内容のものが飛行場施設として必要であると認められる。

また、飛行場施設としてどの程度の規模、内容のものにするかについては、事柄の性質上極めて広い専門技術的裁量の余地があるのは当然であるところ、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことや、現実の使用者たる駐留軍の意向等諸般の事情を配慮しながら、将来的な予測をして右裁量の範囲内で決せられるべきものである。そして、その結果、本件飛行場施設の用地として提供するのが相当であると判断された範囲は、別紙図面一中に記載の青線で囲まれた範囲内の土地部分である。

(5) 小括

以上のとおり、本件飛行場施設は、全体として駐留軍用地として提供する必要があり、これをすべて提供することが駐留軍用地特措法三条所定の「適性且つ合理的」という要件に適合する。そして、本件一土地は、いずれも飛行場施設として機能するために必要とされる保安緩衝地帯の中に位置している。

したがって、本件一土地は、いずれも駐留軍用地に提供する必要性があり、かつ、提供することによって得られる公益がこれによって失われる利益に優っているというべきであるから、本件使用認定処分は適法である。

(四) 本件二土地についての本件使用認定処分の適法性

(1) 本件港湾施設の概要

本件港湾施設は、東シナ海に面して那覇市西南端に所在し、別紙図面二に表示のように、長さ二〇〇〇メートル、幅約三〇〇メートルの細長い形状をした施設で、その総面積は約六四万五〇〇〇平方メートルである。

本件港湾施設は、戦後米軍がバース等港湾設備を整備改修して軍事物資の搬出入港として使用してきたが、沖縄の復帰に当たり、地位協定二条一項に基づく施設及び区域として港湾施設に使用する目的で、駐留軍の用に供され、現在に至っている。

本件港湾施設は、本件使用認定処分の前から現在まで、陸海空軍及び海兵隊の物資等の積卸し、積込みに使用され、これに伴う物資等の管理及び船舶等の修理のための管理事務所、修理工場、バース、野積場及び倉庫等が設置されている。

(2) 本件港湾施設用地の使用権原

本件港湾施設の敷地の所有主体別の内訳は、約八〇パーセントが民有地、約八パーセントが公有地、約一二パーセントが国有地である。

このため、国有地以外の土地については、国は、沖縄の復帰に際し、本件港湾施設を駐留軍の用に供するため、土地所有者と交渉し、できる限り、賃貸借契約を締結することにより使用権原を取得することに努めた。その結果、復帰時の本件港湾施設の要契約件数八八六件中八一七件については賃貸借契約の締結ができたが、本件二土地を含む残り六九件については契約を締結することができず、国は、それらの土地を、公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項に基づき暫定使用してきた。

国は、右暫定使用の期間中においても、契約により使用権原を取得することに努め、土地所有者と再三にわたり契約交渉を重ねてきた結果、逐次賃貸借契約を締結し、その殆どの土地について使用権原を取得したが、なお契約締結に至らなかったものについては、駐留軍用地特措法により使用権原を取得し使用してきた。

しかし、その後も原告を含む三件(二一筆)については、契約の締結に応じないため、駐留軍用地特措法に基づく使用権原がなくなる昭和六二年五月一五日以降の使用権原を確保すべく、再度、駐留軍用地特措法に基づき使用認定処分をした。

本件二土地(一九筆)は、右三件のうちの一件であり、その合計面積は、本件港湾施設の敷地面積の約二・三パーセントに当たる約一万五〇〇〇平方メートルである。そして、本件二土地は、別紙図面二中に記載の赤印部分に所在し、管理事務所(二筆)、修理工場(四筆)、エプロン(二筆)、倉庫及び野積場(八筆)、道路及び駐車場(三筆)の各施設の敷地ないし用地として使用されている。

(3) 本件港湾施設の必要性

本件港湾施設は、前記(1)に記載のとおり、沖縄の駐留軍の物資の搬出入のために使用されているところ、その現実の使用程度は、駐留軍船舶の出入状況により変動するものではあるが、従前から本件使用認定処分時点までの駐留軍の使用実績及びそれ以降の使用見込み等に照らすと、従前使用していたのと同程度の規模と内容のものが港湾施設として必要であると認められる。

また、港湾施設としてどの程度の規模、内容のものにするかについては、事柄の性質上極めて広い専門技術的裁量の余地があるのは当然であるところ、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことや、現実の使用者たる駐留軍の意向等諸般の事情を配慮しながら、将来的な予測をして右裁量の範囲内で決せられるべきものである。そして、その結果、本件港湾施設の用地として提供するのが相当であると判断された範囲は、別紙図面二中に記載の青線で囲まれた範囲内の土地部分である。

なお、本件港湾施設については、昭和四九年一月三〇日の第一五回日米安全保障協議委員会において、移設措置とその実施について日米両国政府間の合意成立後に返還される施設及び区域とする旨の合意がされている。しかし、代替地の確保のための努力はされているものの、その実現は難しく、当分本件港湾施設を継続使用せざるをえない状況にある。

(4) 小括

以上のとおり、本件港湾施設は、全体として駐留軍用地として提供する必要性があり、これをすべて提供することが駐留軍用地特措法三条所定の「適性且つ合理的」という要件に適合する。そして、本件二土地は、いずれも港湾施設として機能するために不可欠な施設の一部となっており、いずれも本件港湾施設の枢要な部分に位置している。

したがって、本件二土地は、いずれも駐留軍用地に提供する必要性があり、かつ、提供することによって得られる公益がこれらによって失われる利益に優っているというべきであるから、本件使用認定処分は適法である。

5 要約

よって、本件各使用認定処分については、原告主張のような違憲ないし違法な点は何ら存しない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  原告の本件各土地の所有及び本件各使用認定処分の存在について

請求原因1(原告が本件各土地を所有していること)及び同2(被告が、昭和六〇年三月二〇日、駐留軍用地特措法五条の規定に基づき本件各土地につき本件各使用認定処分をし、同法七条一項の規定により本件一土地については総理府告示第一七号をもって、本件二土地については同告示一九号をもってそれぞれ告示したこと)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  本件各使用認定処分がされた経緯等について

右当事者間に争いのない事実に、〈証拠〉を総合すれば、以下の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

1  本件各土地の現況等について

(一)  本件一土地を含む本件飛行場施設は、沖縄本島中部の宜野湾市台地上に所在し、北東から南西方向に伸びる後記の滑走路をその中心に配した、長さ四四〇〇メートル、幅約一六〇〇メートルのほぼ楕円形をした施設で、その総面積は約四八三万三〇〇〇平方メートルである。

本件飛行場施設は、海兵隊キャンプ・バトラー基地司令部管理の下、第三六海兵航空群及び第一八海兵航空管制群等の輸送機及びヘリコプター等の基地として使用されている。本件飛行場施設には、軍人軍属約三〇〇〇人が配属され、ここでの年間管制回数は平均約六万五〇〇〇回である。そして、本件飛行場施設内には、長さ二八〇〇メートル、幅約四六メートルの滑走路を有する飛行場、管理事務所、隊舎、修理工場及び倉庫等が設置されている。

また、本件使用認定処分がされた昭和六〇年三月二〇日当時の本件飛行場施設の敷地の所有主体別の内訳は、約九三パーセントが民有地、約一パーセントが公有地、約六パーセントが国有地であり、右敷地のうち、国が賃貸借契約を締結するなどしてその使用権原を取得していた部分の割合は、約九九・七パーセントである。

本件一土地の二筆の土地は、本件飛行場施設の一部で、別紙図面一中に記載の各赤印部分に、約二九〇メートル離れて散在する約二九六三平方メートル及び約九四四平方メートルの面積の土地である。本件一土地のうち本件一1土地は、飛行場着陸帯(特定方向に向って行う航空機の離陸又は着陸の用に供するために設けられる飛行場内の矩形部分)の長辺の外縁から直線距離で約七五メートルの地点に、本件一2土地は、飛行場着陸帯の長辺の外縁から直線距離で約三六五メートルの地点にそれぞれ所在すること、及び、本件一土地には、天然の洞窟があり周辺の雨水等が自然にこれに流入する地形となっていることから、本件一土地は、保安緩衝地帯(航空機の航行の安全を確保するために物件の設置等の制限を必要とする地帯)用地及び排水施設用地として現に使用されている。

本件使用認定処分当時の本件一土地の総面積(約四〇〇〇平方メートル)の本件飛行場施設の敷地面積に占める割合は約〇・〇八パーセントである。

(二)  本件二土地を含む本件港湾施設は、東シナ海に面して沖縄本島南部の那覇市西南端に所在し、長さ約二〇〇〇メートル、幅約三〇〇メートルの細長い形状をした施設で、その総面積は約六四万五〇〇〇平方メートルである。

本件港湾施設は、沖縄駐留米陸軍司令部管理の下、米軍運輸管理部隊沖縄港湾隊及び米海兵隊第三役務支援群等の陸海空軍が使用する車両、生活用品等多種類の物資の船舶への積み込み又は積卸し、これらの物資の地区内の倉庫及び野積場への保管、車両の修理等を行うために使用されている。本件港湾施設には、軍人軍属約六〇人、日本人被用者約一五〇人が配属、配置され、ここでの年間物資取扱量は平均約七〇万トンである。そして、本件港湾施設には、バース、倉庫、修理工場、貯油タンク及び管理事務所等が設置されている。

また、本件使用認定処分がされた昭和六〇年三月二〇日当時の本件港湾施設の敷地の所有主体別の内訳は、約八〇パーセントが民有地、約八パーセントが公有地、約一二パーセントが国有地であり、右敷地のうち、国が賃貸借契約を締結するなどしてその使用権原を取得していた部分の割合は、約九七・六パーセントである。

本件二土地の一九筆の土地は、本件港湾施設の一部で、別紙図面二中に記載の各赤印部分に点在する約一四平方メートルないし約九九九五平方メートルの面積の土地である。本件二土地は、港湾地区の管理事務所(二筆)、機械修理工場(四筆)、エプロン(二筆)、倉庫及び野積場(八筆)、道路及び駐車場(三筆)の各施設の敷地ないし用地として現に使用されている。

本件使用認定処分当時の本件二土地の総面積(約一万五〇〇〇平方メートル)の本件港湾施設の敷地面積に占める割合は約二・三三パーセントである。

2  沖縄における駐留軍用地提供の経緯について

(一)  米国は、戦後、極東における沖縄の軍事的価値に着眼し、沖縄に米軍基地を建設して長期的に継続使用する意向を有した。そして、我が国政府は、昭和四〇年ころより沖縄の復帰について米国政府と交渉を開始したが、その際、米国政府は、沖縄における米軍基地の継続使用が復帰のための不可欠の前提となる旨表明し、我が国政府も、沖縄における米軍基地の存続が極東の安全のために重要であると考え、沖縄における米軍基地の重要性に関する日米両国の基本的な認識は一致していた。

(二)  このような経緯を受けて、昭和四七年三月二一日に沖縄返還協定が成立したが、その三条一項には、我が国が安保条約及びこれに関連する取極に従い、右協定の効力発生の日に米国に対し、沖縄における施設及び区域の使用を許す旨規定されている。

(三)  そして、沖縄返還協定三条の規定に関し、従前から存在した沖縄の米軍施設及び区域の復帰後のあり方について、昭和四六年六月一七日、日米両国間で「了解覚書」が交わされていたところ、同覚書中において、従前の各個の施設及び区域は、駐留軍用地として提供するもの(同覚書別紙A表参照)、自衛隊や運輸省に引き継がれるもの(同覚書別紙B表参照)、その全部又は一部が使用を解除されるもの(同覚書別紙C表参照)の三種類に区分された。右A表に掲げる施設及び区域は、日米両国が別段の合意をしない限り、沖縄の復帰の日から駐留軍施設及び区域として提供することを日米合同委員会において合意する用意があると了解したもので、本件一土地を含む本件飛行場施設及び本件二土地を含む本件港湾施設はいずれも右A表に組み入れられた。

(四)  その後、右A表に掲げる施設及び区域についてもその整理縮小のために、日米両国は合同委員会及び安全保障協議委員会等の場を通じて交渉を重ねてきた結果、別紙「沖縄における駐留軍施設及び区域の年度別返還状況」に記載のとおりの面積の施設及び区域の返還がなされてきている。

3  本件一土地についての本件使用認定処分の経緯について

(一)  本件飛行場施設は、昭和二〇年に米軍が接収し、使用していたものであるところ、右2記載の経緯を受けて、昭和四七年五月一五日に沖縄の施政権が我が国に返還されるに当たり、地位協定二条一項の施設及び区域として駐留軍に提供する旨の閣議決定が行われた。

(二)  国は、本件飛行場施設の敷地のうち、民有地及び公有地について、土地所有者と交渉し、賃貸借契約によって使用権原を取得することに努め、その結果、沖縄の復帰時の本件飛行場施設の要契約件数一七〇六件中一六五五件の土地について賃貸借契約が締結され、本件一土地を含む残り五一件について公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項により暫定使用し、駐留軍に提供してきた(但し、公用地暫定使用法に基づく暫定使用の期限は昭和五二年五月一四日であったところ、同法に基づく使用期間を五年間延長する旨の地籍明確化法附則六項及び公用地暫定使用法施行令の一部を改正する政令が施行されたのは同月一八日であった。)。

(三)  国は、右暫定使用の期間中にも契約による使用権原の取得に努め、土地所有者との交渉を重ねてきた結果、逐次契約を締結し、他方、施設の一部が返還されたことに伴い暫定使用地は減少したものの、なお、本件一土地を含む五件(八筆)の土地については、地籍明確化法附則六項により延長された公用地暫定使用法に基づく使用期間の満了する昭和五七年五月一四日までに契約の締結に至らなかった。

(四)  そこで、国は、本件一土地を含む右八筆の土地について、駐留軍用地特措法に基づき、昭和五六年八月二四日、被告より使用認定処分を得て、かつ、本件一土地については、同五七年四月一日、沖縄県収用委員会より使用期間を同年五月一五日から五年間とする土地使用裁決を得て、右各土地を駐留軍の用に供してきた。

(五)  ところが、本件一土地を含む右八筆の土地については、依然として土地所有者との間で契約の締結が見込めなかったため、那覇防衛施設局長は、駐留軍用地特措法四条に基づき、昭和六〇年一月三一日、再度、右八筆の土地につき使用認定申請書を防衛施設庁長官及び防衛庁長官を通じ被告に提出した。本件一土地に関する右申請書には、駐留軍用地特措法四条一項所定の「使用の認定を申請する理由書」、「土地等の調書」、「使用しようとする土地の図面」、「土地所有者及び関係人の意見書」、「法令の規定により土地の利用について制限が課せられている土地の関係書類」がそれぞれ添付されていた。

(六)  右申請に基づき、被告は、昭和六〇年三月二〇日、駐留軍用地特措法五条の規定により本件一土地につき本件使用認定処分をし、かつ、同六二年二月二四日、沖縄県収用委員会は、使用期間を同年五月一五日から一〇年間とする土地使用裁決をした。

4  本件二土地についての本件使用認定処分の経緯について

(一)  本件港湾施設は、昭和二〇年に米軍が接収し、使用していたものであるところ、前記2記載の経緯を受けて、昭和四七年五月一五日に沖縄の施政権が我が国に返還されるに当たり、地位協定二条一項の施設及び区域として駐留軍に提供する旨の閣議決定が行われた。

(二)  国は、本件港湾施設の敷地のうち、民有地及び公有地について、土地所有者と交渉し、賃貸借契約によって使用権原を取得することに努め、その結果、沖縄の復帰時の本件飛行場施設の要契約件数八八六件中八一七件の土地について賃貸借契約が締結され、本件二土地を含む残り六九件について公用地暫定使用法及び地籍明確化法附則六項により暫定使用し、駐留軍に提供してきた(但し、公用地暫定使用法に基づく暫定使用の期限は昭和五二年五月一四日であったところ、同法に基づく使用期間を五年間延長する旨の地籍明確化法附則六項及び公用地暫定使用法施行令の一部を改正する政令が施行されたのは同月一八日であった。)。

(三)  国は、右暫定使用の期間中にも契約による使用権原の取得に努め、土地所有者と交渉を重ねてきた結果、逐次契約を締結したものの、なお、本件二土地を含む三件(二三筆)の土地については、地籍明確化法附則六項により延長された公用地暫定使用法に基づく使用期間の満了する昭和五七年五月一四日までに契約の締結に至らなかった。

(四)  そこで、国は、本件二土地を含む右二三筆の土地について、駐留軍用地特措法に基づき、昭和五六年八月二四日、被告より使用認定処分を得て、かつ、本件二土地については、同五七年四月一日、沖縄県収用委員会より使用期間を同年五月一五日から五年間とする土地使用裁決を得て、右各土地を駐留軍の用に供してきた。

(五)  ところが、本件二土地を含む右二三筆の土地のうち二一筆の土地については、依然として土地所有者との間で契約の締結が見込めなかったため、那覇防衛施設局長は、駐留軍用地特措法四条に基づき、昭和六〇年一月三一日、再度、右二一筆の土地につき使用認定申請書を防衛施設庁長官及び防衛庁長官を通じ被告に提出した。本件二土地に関する右申請書には、駐留軍用地特措法四条一項所定の「使用の認定を申請する理由書」、「土地等の調書」、「使用しようとする土地の図面」、「土地所有者及び関係人の意見書」、「土地収用法第四条に規定する土地及び法令の規定により土地の利用について制限が課せられている土地の関係書類」がそれぞれ添付されていた。

(六)  右申請に基づき、被告は、昭和六〇年三月二〇日、駐留軍用地特措法五条の規定により本件二土地につき本件使用認定処分をし、かつ、同六二年二月二四日、沖縄県収用委員会は、使用期間を同年五月一五日から五年間とする土地使用裁決をした。

三  安保条約の違憲性について

1  原告は、本件各使用認定処分の根拠法である駐留軍用地特措法が安保条約及び地位協定の存在を前提としているところ、安保条約が我が国の最高法規である憲法に違反するから、本件各使用認定処分も違憲無効である旨主張する。

2  安保条約の違憲性に対する司法審査権について

安保条約は、主権国としての我が国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであるから、その内容が違憲か否かの法的判断は、その条約を締結した内閣及びこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくない。それ故、これが違憲か否かの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、したがって、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであって、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣及びこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には主権を有する国民の政治的批判に委ねられるべきものと解するのが相当である(最高裁判所昭和三四年(あ)第七一〇号昭和三四年一二月一六日大法廷判決・刑集一三巻一三号三二二五頁、最高裁判所昭和四一年(あ)第一一二九号昭和四四年四月二日大法廷判決・刑集二三巻五号六八五頁参照)。

そこで、以下、安保条約が一見極めて明白に違憲無効と認められるか否かにつき判断する。

3  安保条約六条の違憲性について

(一)  憲法前文違反性について

原告は、米軍の駐留を認める安保条約六条は憲法前文に違反する旨主張する。

しかしながら、憲法前文は、憲法制定の動機、目的及びその基本原理等を述べるものではあるが、未だその内容は抽象的なものに止まり、具体的個別的に定立された裁判規範ということはできない。したがって、憲法前文自体を裁判規範として、これに違反する法律等の無効を主張することはできないものと解される。もっとも、憲法前文は、憲法の一部として法規範性を有し、憲法本文の各条項の解釈の基準ないし指針となりうるものと解されるので、安保条約六条が、憲法前文の趣旨に一見極めて明白に違反する場合には、これが憲法本文の各条項に一見極めて明白に違反することになりうることも考えられるから、以下、安保条約六条が、憲法前文の趣旨に一見極めて明白に違反するものであるか否かにつき判断する。

まず、憲法前文は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と述べている。また、憲法上我が国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されておらず、憲法前文や九条において表明される平和主義も無防備、無抵抗を定めたものではない。それゆえ、我が国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことというべきである。そして、我が国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方式又は手段である限り、国際情勢の実情に即応して適当な方法を選ぶことができるものというべきところ、我が国がその方法の一つとして選択した安保条約に基づく米軍の駐留は、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与」し、もって、「再び戦争の惨禍が起ることのないやうにする」という目的を有し、かつ、安保条約の前文及び本文の各規定に照らせば、これによって我が国の防衛力の不足を、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」補おうとしたものにほかならないことが窺われる。

右によれば、米軍の駐留を認める安保条約六条は、憲法前文の趣旨に違反することが一見極めて明白であるとは、到底認められない。

(二)  憲法九条二項前段違反性について

原告は、在日米軍が憲法九条二項前段に保持を禁止する戦力に該当するので、米軍の駐留を認める安保条約六条は右条項に違反する旨主張する。

しかしながら、憲法九条二項がその保持を禁止した戦力とは、我が国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使しうる戦力をいうものであり、結局我が国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれが我が国に駐留し原告主張のような事前協議による監督の機会等があるとしても、我が国が直接的な指揮権、管理権を行使しうるものとはいえない以上、右条項にいう戦力に該当しないことは明らかである。

したがって、原告の右主張は失当である。

(三)  憲法九条二項後段違反性について

原告は、米軍の駐留を認める安保条約六条は、交戦権を否認した憲法九条二項後段に違反する旨主張する。

しかしながら、憲法九条二項後段で否認されるのは我が国自身の交戦権であるし、我が国が安保条約により米国に交戦権を委任するような関係にはないことも右(二)の説示から明らかであるから、原告の右主張も失当である。

(四)  憲法九八条二項、九条違反性について

原告は、安保条約六条は、「極東における国際の平和及び安全の維持」のために出動しうる米軍の駐留を認めるもので、自衛権及び自衛戦争を含む一切の戦争を放棄した憲法九条に違反するのみならず、国際連合憲章五一条に違反し国際的な義務への忠実を誓う憲法九八条二項に抵触する旨主張する。

しかしながら、前記(一)に説示のとおり憲法上我が国の自衛権が否定されていないこと、及び、我が国が自衛のための措置として選択した安保条約に基づく米軍の駐留の目的と意義が同所に説示のとおりであることに鑑みれば、米軍が「極東における国際の平和及び安全の維持」のために出動しうるとしても、これをもって、右のような米軍の駐留を認める安保条約六条が一見極めて明白に憲法九条に違反するとはいえない。

また、国際連合憲章五一条は、すべての国が個別的及び集団的自衛の固有の権利を有する旨規定しているのであるから、我が国が自衛のための措置として、我が国の安全及びこれと密接な関連のある「極東における国際の平和及び安全の維持」のために出動しうる米軍の駐留を認めることをもって、右憲章の規定に違反するとはいえない。それゆえ、安保条約六条は一見極めて明白に憲法九八条二項に抵触するとはいえない。

よって、原告の前記主張は失当である。

4  安保条約三条の違憲性について

原告は、安保条約三条は、我が国に軍事力を発展させることを義務付けるもので、憲法九条二項前段に違反する旨主張する。

しかしながら、憲法九条二項前段が一切の戦力の保持を禁止したものと解するか否かはともかくとして、安保条約三条は、「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」と規定しているのであり、あくまで「憲法上の規定に従うことを条件として」、「武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力」の維持発展を定めているにすぎないから、右条項が一見極めて明白に憲法九条二項前段に違反するといえないことも明らかである。

よって、原告の右主張は失当である。

5  安保条約五条の違憲性について

原告は、安保条約五条前段は、日米共同作戦を相互に義務付け、我が国が戦争に巻き込まれる危険性を著しく増大させるとともに、我が国自らが戦争を引き起こす危険を招来するもので、憲法九条に違反する旨主張する。

しかしながら、安保条約五条前段には、「各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続にしたがって共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」と規定されており、右規定によって、義務付けられている行動は、我が国の施政の下にある領域について日米両国のいずれか一方に対する武力攻撃に対処するための限定的かつ防衛的性質の行動であって、かかる攻撃に対処するための我が国の行動は、我が国の「憲法上の規定及び手続」に従った我が国自身の個別的自衛権の行使にほかならないものと解されるうえ、同条後段によれば、右防衛的行動も、国際連合安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置をとったときはこれを終止しなければならないのである。

したがって、安保条約五条前段が一見極めて明白に憲法九条に違反するといえないことは明らかであり、原告の前記主張は失当である。

6  小括

以上のとおり、安保条約は一見極めて明白に違憲無効であるとは認められないから、安保条約が憲法に違反することを前提として本件各使用認定処分が違憲無効であるとする原告の前記主張は失当というべきである。

四  駐留軍用地特措法の違憲性について

1  原告は、本件各使用認定処分の根拠法である駐留軍用地特措法が憲法前文、九条、二九条三項、三一条に違反するから、本件各使用認定処分も違憲無効である旨主張する。

2  憲法前文、九条違反性について

原告は、駐留軍用地特措法は、安保条約及び地位協定と不可分一体の関係にあるところ、安保条約が憲法前文、九条に違反し無効である以上、同法も当然に違憲無効である旨主張する。

しかしながら、安保条約が憲法前文、九条に違反する旨の原告の主張が失当であることは前記三に説示のとおりであるから、原告の前記主張はその前提を欠き失当である。

3  憲法二九条三項違反性について

原告は、駐留軍用地特措法は、「駐留軍の用に供する」という軍事目的のために、また「極東における国際の平和及び安全の維持」のために駐留する米軍の用に供するという目的のために、国民の私有財産を使用・収用するもので「公共のために」私有財産を用いる場合に当たらないから、憲法二九条三項に違反する旨主張する。

しかしながら、安保条約は、六条前段において、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。」と、また、駐留軍用地特措法は、一条において、「この法律は、地位協定を実施するため、駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定することを目的とする。」旨それぞれ規定しているところ、右各規定から明らかなとおり、駐留軍用地特措法に基づき土地等の使用・収用を行うのは、あくまでも我が国の安全及びこれと密接な関連のある「極東における国際の平和及び安全の維持」を図るという目的のためのものであり、かつ、これは我が国が国家として遵守すべき米国に対する施設及び区域の提供という条約上の責務の履行にほかならない。そして、米軍の駐留が一見極めて明白に憲法に違反すると認められないことは、前記三3に説示のとおりである。

したがって、前記のような目的及び責務の履行のために私有財産を用いることは、まさに「公共のために」用いる場合にほかならず、駐留軍用地特措法が憲法二九条三項に違反するものとはいえないので、原告の前記主張は失当である。

4  憲法三一条違反性について

(一)  原告は、駐留軍用地特措法は、その手続が土地収用法に比して著しく簡略化されており、使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるから、適正手続を保障した憲法三一条に違反する旨主張する。

(二)(1) 憲法三一条は、本来的には、その規定の文言どおり、人の生命若しくは自由を奪い、又は人にその他の刑罰を科する刑事手続に関するものであるが、人の権利や自由を制限する行政処分手続の一切が同条の保障の枠外にあるとするのは相当ではなく、制限の目的、制限される権利や自由の内容及び程度に応じた適正な手続の要請は、行政処分手続に関しても同条の趣旨とするところと解される。

そこで、駐留軍用地特措法における処分手続について以下に検討する。

(2) 原告は、駐留軍用地特措法では、使用・収用の申請に、土地収用法一八条に定める事業計画書若しくはそれに相当する使用・収用の内容を具体的に説明した書類の添付が要求されていない旨主張する。

たしかに、原告主張のとおり、土地収用法においては、起業者が建設大臣又は都道府県知事に事業認定申請書を提出する際に事業計画書の添付を義務付けている(一八条二項)が駐留軍用地特措法においては、このような事業計画書若しくはそれに相当する使用・収用の内容を具体的に説明した書類の添付が要求されていない。

しかしながら、駐留軍用地特措法は、多岐にわたる事業を対象とする土地収用法とは異なり、使用・収用者は国のみであり、使用・収用の目的も「駐留軍の用に供するため」に限られている。したがって、右のように使用・収用の主体及び目的が限定されていることに鑑みれば、駐留軍用地特措法が使用・収用の認定処分を行うための資料として事業計画書の添付を要求していないとしても、これをもって土地収用法に比して使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるということはできない。

(3) 次に、原告は、駐留軍用地特措法には、土地収用法二四条、二五条所定の事業認定申請書、添付書類の送付及び縦覧の手続がなく、利害関係人の意見書の提出についての定めもない旨主張する。

たしかに、原告主張のとおり、土地収用法においては、建設大臣又は都道府県知事に市町村長への事業認定申請書等の写の送付を、また、右送付を受けた市町村長に右送付に係る書類の縦覧をそれぞれ義務付け(二四条)、利害関係人に意見書の提出を認めている(二五条)が、駐留軍用地特措法においては、このような規定は存しない。

しかしながら、駐留軍用地特措法には、右各規定に相当するものとして、四条一項に、防衛施設局長は、使用・収用の認定の申請書を提出する際に、所有者又は関係人の意見書を添付しなければならない旨の規定の存することが明らかである。

この点について、原告は、意見書の提出が認められている者の範囲が土地収用法よりも狭く、かつ、使用・収用の内容を殆ど知らされない状態で意見書を提出しなければならないので、土地所有者等の権利保護に欠ける旨主張する。しかし、所有者又は関係人が使用・収用の認定処分につき最も利害関係を有するものであること、及び、右(2)に説示のとおり、駐留軍用地特措法では、土地収用法に比して、使用・収用の主体及び目的が限定されていること等に鑑みれば、原告の右主張に係る事実を考慮に入れても、駐留軍用地特措法が事業認定申請書等の写の送付、縦覧及び意見書の提出の規定を設けていないことをもって、直ちに使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるものということはできない。

(4) また、原告は、駐留軍用地特措法には、土地収用法二三条所定の公聴会の制度がない旨主張する。

たしかに、原告主張のとおり、土地収用法においては、公聴会の制度を設けている(二三条)が、駐留軍用地特措法においては、このような規定は存しない。

しかしながら、土地収用法においても、公聴会の開催は、建設大臣又は都道府県知事において必要があると認めるときになされるのであって(二三条一項)、常にその開催が義務付けられているものではないし、駐留軍用地特措法においては、右(3)に説示のとおり、使用・収用の認定申請書に使用・収用の認定処分につき最も利害関係を有する所有者又は関係人の意見書を添付する旨の規定の存することに照らせば、公聴会の制度を欠くからといって、直ちに使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるものということはできない。

(三)  以上によれば、駐留軍用地特措法は、土地収用法と比して手続が著しく簡略化されているとはいえず、使用・収用される土地所有者等の権利保護に欠けるところはないから、憲法三一条に違反するものでないことは明らかであり、原告の前記主張は失当である。

5  小括

よって、駐留軍用地特措法が憲法に違反することを前提として本件各使用認定処分が違憲無効であるとする原告の前記主張は失当というべきである。

五  本件各使用認定処分の違憲性について

1  原告は、本件各使用認定処分が憲法二九条三項、三一条に違反するから、違憲無効である旨主張する。

2  憲法二九条三項違反性について

原告は、本件各土地を米軍基地の用に供することは「公共のために用ひる」とはいえないから、そのためにする本件各使用認定処分は、憲法二九条三項に違反する旨主張する。

しかしながら、駐留軍用地特措法が憲法二九条三項に違反するといえないことは前記四3に説示のとおりであり、また、本件各使用認定処分は、後記六に認定説示のとおり、駐留軍用地特措法三条所定の要件を充足するものであるから、原告の右主張は失当である。

3  憲法三一条違反性について

原告は、土地収用法によって設置、組織された収用委員会には、駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用・収用を審理裁決する権限がないことを前提に、本件各使用認定処分は、適正手続を保障する措置が講じられないまま行われたもので、憲法三一条に違反する旨主張する。

しかしながら、そもそも、駐留軍用地特措法上、収用委員会は、これが土地収用法によって設置、組織されたものであるか否かはともかくとして、土地等の使用・収用の認定処分がなされた後、国による使用・収用の裁決の申請があったときに初めて、右申請に係る事項の審理を通じて手続に関与するものであり、その前段階たる使用・収用の認定処分手続自体には何ら関与するものではない(同法一四条一項参照)。したがって、土地収用法によって設置、組織された収用委員会が駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用・収用の裁決の申請に対する審理裁決権限を有しているか否かということは、右申請に基づく審理の前段階でなされた本件各使用認定処分自体の違憲性とは何ら関係のない事柄というべきであるから、原告の右主張は失当である。

4  小括

以上によれば、本件各使用認定処分が憲法に違反するから違憲無効であるとの原告の前記主張は失当というべきである。

六  本件各使用認定処分の適法性について

1  原告は、本件各使用認定処分が駐留軍用地特措法三条所定の要件を充たすものではなく、違法である旨主張する。

2  駐留軍用地特措法三条の解釈について

(一)  駐留軍用地特措法三条は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるときは、この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用することができる。」と規定する。そして、土地収用法と駐留軍用地特措法とは、一般法と特別法の関係にあると解されるところ(なお、土地収用法二〇条は、事業認定の要件として「事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること。」を事業認定の一要件として規定している。)、土地収用法一条は、同法の目的として「この法律は、公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し、その要件、手続及び効果並びにこれに伴う損失の補償等について規定し、公共の利益の増進と私有財産との調整を図り、もって国土の適正且つ合理的な利用に寄与することを目的とする。」と規定している。

(二)  右のような駐留軍用地特措法と土地収用法の各規定の文言及び趣旨に鑑みれば、駐留軍用地特措法三条所定の「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」とは、駐留軍の用に供するため土地等を提供する客観的必要性が存する場合を指すことが明らかであり、また、同条所定の「適正且つ合理的」とは、原告主張のように「適正」と「合理的」とに分断して解釈すべきではなく、両者を併せて一体として、前記土地等の提供の客観的必要性が高く、かつ、右提供により得られる公共の利益がこれにより失われる利益に優っていることを意味するものと解するのが相当である。

(三)  そして、駐留軍用地特措法は、地位協定を実施するために駐留軍の用に供する土地等の使用・収用に関して規定することを目的とするものであること(同法一条参照)に鑑みれば、同法三条所定の要件の充足性の有無の判断については、その性質上、政策的かつ技術的な側面が多分に存するものというべきであるから、使用・収用の認定処分をする行政庁である被告には、一定の範囲において裁量の余地が認められ、その判断に裁量権の逸脱ないしは濫用があった場合に限り、当該処分は違法となるものと解される。

3  本件一土地についての本件使用認定処分の適法性について

(一)(1) 原告は、本件一土地は、これを本件飛行場施設における保安緩衝地帯用地及び排水施設用地として提供すべき必要性に欠ける旨主張する。

(2)〈1〉 保安緩衝地帯用地としての必要性について

(ア) 航空法四九条一項は、「何人も、公共の用に供する飛行場について、告示で示された進入表面、転移表面又は水平表面(これらの投影面が一致する部分については、これらのうち最も低い表面とする。)の上に出る高さの建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置してはならない。」旨、同条二項は、「飛行場の設置者は、前項の規定に違反して、設置し、植栽し、又は留置した物件の所有者その他の権原を有する者に対し、当該物件を除去すべきことを求めることができる。」旨それぞれ規定している。そして、航空法二条は、「進入表面」につき「着陸帯の短辺に接続し、且つ、水平面に対し、上方へ五〇分の一以上で運輸省令で定める勾配を有する平面であつて、その投影面が進入区域と一致するものをいう。」旨(七項)、「水平表面」につき「飛行場の標点の垂直上方四五メートルの点を含む水平面のうち、この点を中心として四〇〇〇メートル以下で運輸省令で定める長さの半径で描いた円周で囲まれた部分をいう。」旨(八項)、「転移表面」につき「進入表面の斜辺を含む平面及び着陸帯の長辺を含む平面であつて、着陸帯の中心を含む鉛直面に直角な鉛直面との交線の水平面に対する勾配が進入表面又は着陸帯の外側上方へ七分の一であるもののうち、進入表面の斜辺を含むものと当該斜辺に接する着陸帯の長辺を含むものとの交線、これらの平面と水平表面を含む平面との交線及び進入表面の斜辺又は着陸帯の長辺により囲まれる部分をいう。」旨(九項)それぞれ規定し、これに関連して同法施行規則七五条二項は、「滑走路の長さが二五五〇メートル以上の陸上飛行場の着陸帯の等級はAとする。」旨、同規則三条一号は、「着陸帯の等級がAである陸上飛行場について、航空法二条八項の水平表面の半径の長さは、四〇〇〇メートルとする。」旨それぞれ規定している。

そして、〈証拠〉によれば、米国連邦航空規則は、同規則が海軍及び海兵隊が基地の使用権を有する海外の施設においてもできるだけ実際に即して適用される旨規定しているところ、同規則は、水平表面につき高さを一五〇フイート(約四五・七メートル)、半径が七五〇〇フイート(約二二八六メートル)として前記と同様の空間を定めていることが認められる。

右各規定の内容自体からすれば、右各規定は、着陸帯の周囲の一定の空間について、物件の設置等により航空機の航行の安全に支障が生ずる空間と判断し、右空間に物件の設置等を禁止することにより、航空機の航行の安全を図るものであることが明らかである。

ところで、航空特例法一条は、「駐留軍が使用する飛行場については、航空法三八条一項(飛行場設置の許可等)の規定は、適用しない。」旨規定し、したがつて、駐留軍飛行場については、飛行場の設置許可及びその後の告示等の手続を前提とする航空法四九条の規定は適用されず、航空機の航行の安全を阻害する物件の設置等がなされた場合、これを除去すべき有効な手段は存しないこととなる。

そうだとすれば、駐留軍飛行場については、航空機の航行の安全を阻害する物件の設置等の可能性の存する着陸帯周辺の区域に保安緩衝地帯用地を確保する必要性が大きいものといわなければならない。

(イ) これを、本件についてみれば、前記二1(一)に認定のとおり、本件飛行場施設は、滑走路の長さが約二八〇〇メートルであり、本件一土地は、別紙図面一中に記載の各赤印部分に所在し、うち本件一1土地は、飛行場着陸帯の長辺の外縁から直線距離で約七五メートルの地点に、本件一2土地は、飛行場着陸帯の長辺の外縁から直線距離で約三六五メートルの地点にそれぞれ所在するのであるから、物件の設置等について、本件飛行場施設に米国連邦航空規則を適用した場合は、本件一1土地は約一〇・七メートルの、本件一2土地は約四五・七メートルの、また、航空法が適用されるとした場合は、本件一1土地は約一〇・七メートルの、本件一2土地は四五メートルの各高度制限を受けるべきものということができる。

(ウ) 以上によれば、本件一土地は、いずれも航空機の航行の安全を阻害する物件の設置等の可能性の存する着陸帯周辺の区域に所在するものというべく、これを保安緩衝地帯用地として確保する必要性は大きいといわなければならない。

(エ) なお、〈証拠〉によれば、本件飛行場施設の敷地のうち、本件一2土地よりも着陸帯の長辺の外縁からの直線距離が短い一部の土地が、従来その各所有者らに返還されている事実が認められるが、前認定説示に照らせば、右事実をもってしても、本件一土地所在場所に保安緩衝地帯用地を確保する必要性を否定することはできない。

〈2〉  排水施設用地としての必要性について

本件一土地は、前記二1(一)に認定のとおり、天然の地形から排水施設用地として適当であり、現に右用地として機能しているうえ、新たに用地を確保して排水施設を設けるにはそのための財政的負担等の問題が存するのであるから、本件一土地は、排水施設用地として確保する必要性があるものということができる。

(3) 以上によれば、本件一土地の保安緩衝地帯用地及び排水施設用地としての客観的必要性が肯認でき、また、駐留軍の用に供するため本件一土地を提供する客観的必要性も高度なものということができる。

(二)(1) 原告は、本件一土地についての本件使用認定処分は、国際法又は憲法に違反する接収、使用を承継したもので、右使用期間も約四〇年間にわたるので、駐留軍用地特措法三条所定の「適正」という要件を充足しない旨主張する。

(2) そして、本件一土地は、昭和二〇年に米軍により接収され、沖縄の復帰後は公用地暫定使用法、地籍明確化法附則六項に基づき、戦後約四〇年間にわたり米軍(駐留軍)の本件飛行場施設の敷地として使用されてきたが、公用地暫定使用法による暫定使用の期限後の昭和五二年五月一五日から地籍明確化法附則六項及び公用地暫定使用法施行令の一部を改正する政令が施行された同月一八日までの四日間、駐留軍が本件一土地を法律的権原なくして占有していたことは、前記二3に認定のとおりである。

しかしながら、駐留軍用地特措法五条に基づく使用認定処分は従前の使用状態とは無関係に新たに土地等を使用しようとする処分であるから、使用認定処分前の使用状況に違法な点が存したからといって、これが直ちに使用認定処分の違法性をもたらすものとは解されない。もっとも、駐留軍用地特措法五条に基づく使用認定処分が同法三条所定の「適正且つ合理的」という要件を充足しているか否かにつき判断するに際しては、当該土地等の従前の使用状況等も考慮すべき一つの要素となるものというべきであるから、以下、原告の主張について検討する。

(3)〈1〉 米軍による講和条約発効以前の本件一土地接収、使用の国際法違反性について

原告は、米国による講和条約発効以前の本件一土地の接収、使用は、陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約に違反する旨主張する。

しかしながら、右接収、使用は、右条約五二条の規定にその根拠を求めることができるし、同条約四六条は、「私有財産はこれを尊重すべし。私有財産はこれを没収することを得ず。」旨規定するのみであり、原告主張のように戦時中に占領地において接収した財産を戦闘又は戦争が終了した時点で直ちにその所有者に返還すべきことを具体的に基礎付ける根拠法ということもできないから、原告の右主張は失当である。

〈2〉  米軍による講和条約発効以降沖縄の復帰以前の本件一土地使用の国際法違反性又は違憲性について

原告は、講和条約以降沖縄の復帰以前の土地収用、使用の根拠法令が国際法又は憲法に違反する旨主張する。

しかしながら、これらの法令が米軍による具体的な本件一土地の使用に適用されたか否かはともかくとして、原告の右主張は、これらの法令が如何なる国際法に違反するのか明確でないうえ、これらの法令は、沖縄に我が国の施政権が及ばなかった時期において米国により発布、施行されたものであり、我が国の憲法を頂点とする法体系秩序の範囲外にあったものであるから、原告の右主張は失当である。

〈3〉  公用地暫定使用法の違憲性について

(ア) 憲法一四条違反性について

原告は、公用地暫定使用法は、本土における米軍基地の継続を保障する駐留軍用地特措法附則二項所定の使用期間六月の一〇倍の暫定使用期間(地籍明確化法附則六項による改正前)を定め、また、沖縄県民に対してのみ土地等の強制使用権を認めているので、沖縄県民を本土の住民と差別しており、憲法一四条に違反する旨主張する。

しかしながら、公用地暫定使用法は、沖縄における公用地等のための土地又は工作物に関する暫定使用について特別な措置を定めるものであり(一条一項)、沖縄県民のみならず、当該土地等につき権利を有する者すべてを対象とした法律であるから、沖縄県民を本土の住民と差別したものとはいえず、憲法一四条に違反するとはいえない。

よって、原告の右主張は失当である。

(イ) 憲法二九条、三一条違反性について

原告は、公用地暫定使用法は、事前の手続規定や事後の不服申立規定を欠いているので、憲法二九条、三一条に違反する旨主張する。

たしかに、公用地暫定使用法のように法律及びこれに基づく告示のみによって人の権利を制限するような場合にも、右権利が憲法二九条の保障の対象となることはもとよりである。また、右のような法律による権利制限が全く憲法三一条の保障の枠外にあるとするのも相当でなく、当該法律の目的、制限される権利の内容、程度に応じた適正な手続の要請は、同条の趣旨とするところと解される。

しかしながら、公用地暫定使用法は、沖縄の施政権が我が国に移行するに際し、公用地等として使用されている土地等につき、権原の不存在による混乱を避ける目的で、権原を取得するまでの間の暫定的な使用について定めた緊急のかつ極めて特殊な状況下における法律であり、新たに土地等を使用・収用する法律ではないことや同法三条に暫定使用による損失の補償に関する規定が存することに照らせば、同法に事前手続の規定等が存しない(但し、同法二条二項所定の告示に対する不服申立ては、一般法たる行政不服審査法又は行政事件訴訟法により可能であると解される。)ことをもって、直ちに憲法二九条、三一条に違反するとはいえない。

よって、原告の前記主張は失当である。

(ウ) 憲法九条違反性について

原告は、公用地暫定使用法は自衛隊のために用地を確保しようとするもので、憲法九条の平和主義の精神に反する旨主張する。

しかしながら、本件一土地は、公用地暫定使用法に基づき自衛隊のために用いられたことはないのであるから、少なくとも本件に関する限り、原告の右主張は失当である。

〈4〉  地籍明確化法附則六項の違憲性について

原告は、地籍明確化法附則六項は、新たな土地収用規定であるのに事前の手続規定や事後の不服申立規定を欠くので、憲法二九条、三一条に違反し、また、これにより一〇年とされた暫定使用の期間が長期であり合理的な私有財産権の制限とはいえないので、憲法二九条に違反する旨主張する。

たしかに、地籍明確化法附則六項が施行された昭和五二年五月一八日には、既に公用地暫定使用法に基づく暫定使用の期限が経過していたのであるから、地籍明確化法附則六項は、ある意味では、新たに土地等を強制使用する旨の規定であると解されなくもない。

しかしながら、(ア)地籍明確化法附則六項は、形式的にはあくまでも公用地暫定使用法(同法が違憲であるとはいえないことは、右〈3〉に説示のとおりである。)二条一項所定の暫定使用の期間を延長する旨の規定であること、(イ)地籍明確化法附則六項により延長された暫定使用権の内容は期間の点を除き従前の公用地暫定使用法に基づくものと同一内容であること、(ウ)地籍明確化法附則六項及び公用地暫定使用法施行令の一部を改正する政令による改正に係る部分に関しては、公用地暫定使用法及び同法施行令に基づく暫定使用の期間経過後、地籍明確化法附則六項施行までの期間はわずか四日間にすぎないこと、(エ)地籍明確化法附則六項により現実に延長された暫定使用の期間は約五年間であること等に鑑みれば、事前手続規定等が存しないことをもって、地籍明確化法附則六項が直ちに憲法三一条、二九条に違反するものということはできない。さらに、公用地等を使用すべき新たな権原を取得するまでの暫定使用につきどの程度の期間を定めるかは立法機関である国会の合理的裁量に委ねられており、地籍明確化法附則六項による改正後の公用地暫定使用法二条一項所定の一〇年間という暫定使用の期間が憲法二九条に違反する程の長期間であるものとは解されない。

よって、原告の前記主張は失当である。

(4) 以上によれば、本件一土地は、戦後約四〇年間にわたり米軍(駐留軍)の本件飛行場施設の敷地として接収、使用されてきたが、昭和五二年五月一五日から同月一八日までの間を除けば、その使用権原につき国際法違反、違憲又は違法の点は存しない。そして、右使用権原を欠く期間は、わずか四日間であり、その間、駐留軍は本件一土地を現実の占有状態を変更することなく平穏かつ公然と占有を続けたもので、権利者から強暴に占有を奪取ないし保持したというような事実は存しないこと等に鑑みれば、右使用権原を欠く期間の存在が直ちに本件一土地についての本件使用認定処分の違法性をもたらす程の事情になるものとは解されない。

したがって、原告の前記主張は、過去に四日間使用権原のない期間があったことを、本件一土地についての本件使用認定処分の駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際して考慮すべき一つの要素とすべきであるという限度においてのみ理由がある。

(三)(1) 原告は、本件一土地は、本件飛行場施設として駐留軍の用に供するよりも、水源涵養地として原告の使用に供する方が「合理的」である旨主張する。

(2) 〈証拠〉によれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

〈1〉 本件一土地にはいずれも洞窟が存在し、そこへ流れ込んだ自然水が水脈が通って、青小堀水源に流れ込んでいる。

〈2〉 原告は、昭和八年ころ、雑木林の存した本件一土地を水源涵養地として水道事業の用に供するため取得し、そのころから、青小堀水源を水道用の水源として使用し始めた。そして、現在、本件一土地の登記簿上の地目は水道用地となっている。

〈3〉 昭和四五年一一月ころから、本件飛行場施設より流入したと思われる廃油等によって、青小堀水源の水が汚染されて、同四六年二月二四日には、約一か月間の取水停止の状態に至ったため、当時の那覇市長が普天間海兵隊飛行基地司令官に対し水源汚染防止の要請をしたことがあったものの、その後、青小堀水源の水が廃油等により汚染されたようなことはなかった。

〈4〉 本件一土地には、従前の雑木林にかわって、現在、雑草や雑木が茂っており、雑木林の存したころよりも、樹木根による濾過作用が少なくなったため、水源涵養地としての効果が減少し、青小堀水源の水は、現在、やや汚染された状態にある。

しかしながら、右汚染の原因は、本件飛行場施設外の新興住宅地から流入する汚水が主な原因と考えられ、本件飛行場施設が汚染の原因となっているか否かは明らかでない。

〈5〉 原告は、浄水場施設を有しており、青小堀水源等から取水した水を、右施設で浄水したうえ、市民に供給している。

(3) 右認定事実によれば、原告が、本件一土地に植林等をして水源涵養地として使用することは、一応の合理的な使用方法といいうるものの、原告が本件一土地を右のような方法で使用しなければならない緊急の必要性は認め難く、また、水源の汚染防止のためには、新興住宅地からの汚水を規制したりすることも一つの有効な方法と考えられる。したがって、原告の前記主張は、右のような一応の合理的な使用方法の存在を、本件一土地についての本件使用認定処分の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際して考慮すべき一つの要素とすべきであるという限度においてのみ理由がある。

(四)  原告は、本件飛行場施設は、騒音公害のみならず、航空機墜落の危険を常に内包する等の基地被害を発生させているので、本件一土地を本件飛行場施設の用地として駐留軍の用に供することは「合理的」でない旨主張する。

たしかに、〈証拠〉によれば、駐留軍が本件飛行場施設を使用することによる航空機騒音が発生し、本件飛行場施設周辺の北東及び南西の一部の地域につき、昭和五六年七月一八日及び同五八年九月一〇日、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(以下「生活環境整備法」という。)四条所定の住宅防音工事の助成施策実施対象区域たる第一種区域に指定する旨告示された(但し、同法五条一項所定の移転補償等の施策実施対象区域たる第二種区域及び同法六条一項所定の緑地帯の整備等の施策実施対象区域たる第三種区域に指定された箇所は存しない。)ことが認められる。そして、駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際しては、本件飛行場施設による右騒音発生の事実は、本件使用認定処分の公益性の存在を減少させる一つの要素となりうるものと考えられる。

しかしながら、〈1〉右認定のとおり、本件飛行場施設周辺の地域には、生活環境整備法五条一項所定の第二種区域及び同法六条所定の第三種区域に指定された箇所は存しないこと、〈2〉飛行場施設による騒音の発生については、飛行場施設の運営、管理のあり方として、駐留軍用地特措法とは別の観点から解決しうる事柄であること、〈3〉騒音の発生については、生活環境整備法に基づく対策措置等も存すること(証人笠原恒雄の証言によれば、本件飛行場施設の周辺地域については、住宅の防音工事に対する国の助成等の対策が講じられていることが認められる。)等に鑑みれば、本件一土地についての本件使用認定処分の駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断につき、本件飛行場施設による前記騒音発生の事実を、駐留軍の用に供するため本件一土地を提供する高度の公益性(後記(六)〈1〉参照)を否定する程の要素と解することはできない。

また、飛行場施設周辺地域への航空機墜落の危険(〈証拠〉によれば、本件飛行場施設所属の航空機墜落等の事故の発生が認められる。)は、施設の措置により航空機の航行が増加することにより、他の地域よりも増大するものと抽象的にはいいうるとしても、〈1〉航空機墜落の危険は、航空機が航行する地域一般に存する問題であり、本件飛行場施設特有の問題ではないこと、〈2〉航空機墜落の危険については、航空機航行の安全管理のあり方として駐留軍用地特措法とは別の観点から解決しうる事柄であること等に鑑みれば、前同様に本件一土地についての本件使用認定処分の駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断につき、これを、駐留軍の用に供するため本件一土地を提供する高度の公益性(後記(六)〈1〉参照)を否定する程の要素と解することはできない。

(五)  なお、原告は、沖縄の米軍基地は公共性とは無縁の危険なものである、沖縄の米軍基地に核が持ち込まれている可能性が高い、沖縄の米軍基地が県民のあらゆる権利を侵害している等縷々主張する(請求原因5(一))が、原告のこれらの主張は、一般的かつ抽象的なものに止まり、本件一土地についての本件使用認定処分につき具体的にその「適正且つ合理的」という要件を欠く事実を述べるものではないので、右各主張を、本件一土地についての本件使用認定処分の適法性の判断に際し考慮することは相当でない。

(六)  他方、前記二に認定の各事実によれば、〈1〉本件一土地を含む本件飛行場施設は、地位協定二条一項に基づく施設及び区域として飛行場施設に使用する目的で駐留軍の用に供されているものであり、その提供は安保条約上の責務の履行としてそれ自体極めて公益性が高いうえ、右責務も「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」という目的のためのもので極めて高度の公益性を有すること、〈2〉沖縄における米軍基地の存続が沖縄の復帰に際しての日米両国の基本的政策の一つであったところ、本件飛行場施設は、日米両国間の前記「了解覚書」においてその別紙A表に組み入れられ、存続すべき施設として位置付けられており、その駐留軍への提供の必要性が高いこと、〈3〉本件飛行場施設は、輸送機及びヘリコプター等の基地として使用されているところ、本件一土地は、右施設中の保安緩衝地帯用地及び排水施設用地として、右施設全体の機能と有機的関連性をもちつつ、現に使用されており、その駐留軍への提供の必要性が客観的にも高いこと、〈4〉本件飛行場施設は、戦後約四〇年間にわたり、本件使用認定処分以前から、駐留軍の用に供されており、これを継続して使用する方が、新たな代替地を確保する場合に比して施設移転費用等財政的負担が少ないこと(なお、この点に関し、駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際しては、前記(二)(2)に記載の本件一土地の従前の使用状況も一つの要素として考慮すべきであり、使用権原を欠く四日間が存したことは前記(二)(4)に認定のとおりであるが、同所に説示のとおり、右期間を除けば、従前の本件一土地の使用権原につき国際法違反、違憲又は違法の点は存しないこと、右使用権原を欠いた期間は四日間にすぎず、その間、駐留軍は本件一土地を現実の占有状態を変更することなく平穏かつ公然と占有を続けたもので、権利者から強暴に占有を奪取ないし保持したというような事実は存しないこと等に鑑みれば、本件使用認定処分以前の本件一土地の使用状況は、むしろ、「適正且つ合理的」という要件を肯認すべき要素となるものである。)、〈5〉駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用は、財産権の制限となる強制処分であるから、できるだけ所有者等の任意の協力が得られる土地等を駐留軍に提供することが望ましいところ、国は、本件飛行場施設の約九九・七パーセントの敷地について、賃貸借契約を締結するなどしてその使用権原を取得しており、また、本件一土地の二筆の土地は、本件飛行場施設の保安緩衝地帯内に約二九〇メートル離れて散在する約九四四平方メートルと約二九六三平方メートルの面積の土地であり、本件一土地の総面積は本件飛行場施設の敷地面積全体の約〇・〇八パーセントにすぎないので、本件飛行場施設については、新たな代替地を確保するよりも、極めて高度の割合で所有者等の任意の協力を得られる状況にあったこと等の諸点が明らかである。

(七)  右(六)の諸点に鑑みれば、前記(二)(4)に記載の右使用権原を欠く期間の存在、前記(三)(3)に記載の水源涵養地としての使用の一応の合理性、前記(四)に記載の騒音の発生や航空機墜落の危険等を考慮にいれても、本件一土地は、これを駐留軍の用に供するため提供すべき高度の客観的必要性があり、かつ、右提供により得られる公共の利益は、水源涵養地として使用しえないという失われる利益よりも優っているものということができるので、駐留軍用地特措法三条所定の要件を充足しているものとして被告がした本件一土地についての本件使用認定処分には、裁量権の逸脱ないしは濫用があったということはできない。

4  本件二土地についての本件使用認定処分の適法性について

(一)  原告は、本件港湾施設は、中東紛争のための米軍の拠点となっており、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」という米軍の駐留目的を明らかに逸脱しているので、本件二土地についての本件使用認定処分は、駐留軍用地特措法三条所定の「駐留軍の用に供する」という要件を充足しない旨主張する。

そして、〈証拠〉によれば、沖縄タイムス社基地問題取材班編集の冊子「沖縄の基地」(昭和五九年発行)には、米軍は本件港湾施設を極点として中東をにらんでいる旨の記事が「世界」編集部編集の冊子「軍事化される日本」(昭和五九年発行)にも同旨の記事が、それぞれ掲載されていることが認められ、証人長元朝浩も同旨の供述をしている。

しかしながら、右各記事及び右供述は、本件港湾施設に砂漠戦用と思われる迷彩色を施した車両が置かれていることや昭和五五年一月に米国国防長官が「もし必要な事態になれば、沖縄駐留の海兵隊を中東に派遣する。」旨発言したこと等を根拠とするものであるが、それらの事実から直ちに本件港湾施設が中東紛争のための米軍の拠点であって、米軍の駐留目的を明らかに逸脱しているとまでいうことは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は失当である。

(二)  原告は、本件港湾施設は移設条件付全面返還が合意され代替性を有するので、本件二土地駐留軍用地として提供する必要性がない旨主張する。

そして、〈証拠〉によれば、本件二土地を含む本件港湾施設については、昭和四九年一月三〇日開催の第一五回日米安全保障協議委員会において、本件港湾施設を移設措置とその実施に係る合意の成立後全部返還される施設及び区域とする旨の合意のなされたことが認められる。

しかしながら、他方、右証言及び弁論の全趣旨によれば、本件港湾施設は、右日米安全保障協議委員会における合意にもかかわらず、大型船舶が利用可能な岸壁及び物資の保管や修理が可能な後背地などを備えた代替地の確保が困難であるため、その後現在に至るも、移設措置とその実施に係る合意の成立をみないまま、米軍によって継続使用されている状況にあることが認められるので、前記合意の存在をもって本件二土地を駐留軍用地として提供する必要性がないものということはできない。

(三)  原告は、本件港湾施設は、船舶修理工場等が閉鎖されているので、本件二土地についての本件使用認定処分は、駐留軍用地特措法三条所定の「必要とする場合」という要件を充足しない旨主張する。

そして、〈証拠〉によれば、沖縄県渉外部基地渉外課編集の冊子「沖縄の米軍基地」には、船舶修理工場及びハーバーマスター室は閉鎖され使用されていない旨の、平成元年一〇月三日付琉球新報朝刊には、本件港湾施設は平成元年八月末の時点で月平均八隻の船舶の出入港しかなく遊休状態である旨の、各記事が掲載されていることが認められる。

しかしながら、〈1〉右各記事からも明らかなように本件港湾施設のうち船舶修理工場及びハーバーマスター室を除くバース、倉庫、管理事務所等の施設部分については現に使用されていること、〈2〉月平均八隻の船舶の出入港状況であることをもって直ちに本件港湾施設が遊休状態にあるものと断定するには足りないこと、〈3〉本件港湾施設は、我が国の安全及び極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという目的のために駐留する米軍の用に供されているものであり、その使用状況は今後の国際情勢により変動しうるものであること等に鑑みれば、仮に、ハーバーマスター室及び船舶修理工場が閉鎖され使用されておらず、月平均八隻の船舶出入港状況であるとしても、このことから直ちに駐留軍の用に供するため本件二土地を提供する必要性がないものということはできない。

(四)  原告は、本件二土地についての本件使用認定処分は、国際法又は憲法に違反する接収、使用を承継したもので、右使用期間も約四〇年間にわたるので、駐留軍用地特措法三条所定の「適正」という要件を充足しない旨主張する。

そして、本件二土地は、昭和二〇年に米軍により接収され、沖縄の復帰後は公用地暫定使用法、地籍明確化法附則六項に基づき、戦後約四〇年間にわたり米軍(駐留軍)の本件港湾施設の敷地として使用されてきたが、公用地暫定使用法による暫定使用の期限後の昭和五二年五月一五日から地籍明確化法附則六項及び公用地暫定使用法施行令の一部を改正する政令を施行された同月一八日までの四日間、駐留軍が本件二土地を法律的権原なくして占有していたことは、前記二4に認定のとおりである。

しかしながら、右四日間を除けば、本件二土地の使用権原につき国際法違反、違憲又は違法の点が存しないこと、及び過去に本件二土地の使用権原の存しない四日間があったことが直ちに本件使用認定処分の違法をもたらすものではなく、右処分の駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際して考慮すべき一つの要素であるに止まることは、本件一土地についての前記3(二)(4)の説示と同様である。

(五)  原告は、原告が本件港湾施設を商港等として利用することが公共の福祉の増進となり「合理的」である旨主張する。

そして、〈証拠〉によれば、原告は、那覇港が過密状態にあるとし、昭和五八年三月、本件港湾施設の敷地がその各所有者に返還されることを前提として、これを商港、漁港、観光港等として利用するという本件港湾施設の跡地利用計画を策定していることが認められ、右計画自体は、公共の福祉に資する一応の合理的な計画と考えられる。

しかしながら、前記二1(二)に認定のとおり、原告が所有する本件二土地は、本件港湾施設中に点在する総面積が右施設の敷地面積全体の約二・三三パーセントにすぎないものであるうえ、本件港湾施設について、国は、本件使用認定処分当時、その約九七・六パーセントの敷地につき賃貸借契約を締結するなどしてその使用権原を取得していたことが明らかである。右の諸点に照らすと、本件港湾施設の敷地全体がその各所有者に返還されることを前提とする前記利用計画については、本件使用認定処分当時のみならず現段階においても、未だその具体性と実現可能性を肯認することはできないから、駐留軍用地特措法三条の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際して、右利用計画の存在を、駐留軍の用に供するため本件二土地を提供することにより失われる利益の一要素として考慮することは相当でない。

結局、本件二土地を駐留軍に提供することによる不利益としては、原告が本件二土地の用益を奪われる以上の特段のものを認めることはできないものといわなければならない。

(六)  なお、原告は、沖縄の米軍基地は公共性とは無縁の危険なものである、沖縄の米軍基地に核が持ち込まれている可能性が高い、沖縄の米軍基地が県民のあらゆる権利を侵害している等縷々主張する(請求原因5(一))が、原告のこれらの主張は、一般的かつ抽象的なものに止まり、本件二土地についての本件使用認定処分につき具体的にその「適正且つ合理的」という要件を欠く事実を述べるものではないので、右各主張を本件二土地についての本件使用認定処分の適法性の判断に際し考慮することは相当ではない。

(七)  他方、前記二に認定の各事実によれば、〈1〉本件二土地を含む本件港湾施設は、地位協定二条一項に基づく施設及び区域として港湾施設に使用する目的で駐留軍の用に供されているものであり、その提供は安保条約上の責務の履行としてそれ自体極めて公益性が高いうえ、右責務も「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」という目的のためのもので極めて高度の公益性を有すること、〈2〉沖縄における米軍基地の存続が沖縄の復帰に際しての日米両国の基本的政策の一つであったところ、本件港湾施設は、日米両国間の前記「了解覚書」においてその別紙A表に組み入れられ、存続すべき施設として位置付けられており、その駐留軍への提供の必要性が高いこと、〈3〉本件港湾施設は、米軍が使用する車両、生活用品等の搬出入及び保管並びに車両の修理等を行うために使用されているところ、本件二土地(一九筆)は、本件港湾施設が港湾施設として機能するために必要と考えられる管理事務所(二筆)、機械修理工場(四筆)、エプロン(二筆)、倉庫及び野積場(八筆)、道路及び駐留場(三筆)の各施設の敷地ないし用地として現に使用されており、その駐留軍への提供の必要性が客観的にも高いこと、〈4〉本件港湾施設は、戦後約四〇年間にわたり、本件使用認定処分以前から、駐留軍の用に供されており、これを継続して使用する方が、新たな代替地を確保する場合に比して施設移転費用等財政的負担が少ないこと(なお、この点に関し、駐留軍用地特措法三条所定の「適正且つ合理的」という要件の充足性の有無の判断に際しては、右(4)記載の本件二土地の従前の使用状況も一つの要素として考慮すべきであり、使用権原を欠く四日間が存したことは同所に認定のとおりであるが、同所に説示のとおり、右期間を除けば、従前の本件二土地の使用権原につき国際法違反、違憲又は違法の点は存しないこと、右使用権原を欠いた期間は四日間にすぎず、その間、駐留軍は本件二土地を現実の占有状態を変更することなく平穏かつ公然と占有を続けたもので、権利者から強暴に占有を奪取ないし保持したというような事実は存しないこと等に鑑みれば、本件使用認定処分以前の本件二土地の使用状況は、むしろ、「適正且つ合理的」という要件を肯認すべき要素となるものである。)、〈5〉駐留軍用地特措法に基づく土地等の使用は、財産権の制限となる強制処分であるから、できるだけ所有者等の任意の協力が得られる土地等を駐留軍に提供することが望ましいところ、国は、本件港湾施設の約九七・六パーセントの敷地について、賃貸借契約を締結するなどしてその使用権原を取得しており、また、本件二土地の一九筆の土地は、本件港湾施設内に点在する約一四平方メートルないし約九九九五平方メートルの面積の土地であり、本件二土地の総面積は本件港湾施設の敷地面積全体の約二・三三パーセントにすぎないので、本件港湾施設については、新たな代替地を確保するよりも、極めて高度の割合で所有者等の任意の協力を得られる状況にあったこと等の諸点が明らかである。

(八)  右(七)の諸点に鑑みれば、前記(四)記載の右使用権原を欠く期間の存在を考慮にいれても、本件二土地は、これを駐留軍の用に供するため提供すべき高度の客観的必要性があり、かつ、右提供により得られる公共の利益は、これにより失われる利益に優っているものということができるので、駐留軍用地特措法三条所定の要件を充足しているものとして被告がした本件二土地についての本件使用認定処分には、裁量権の逸脱ないしは濫用があったということはできない。

5  小括

以上によれば、本件各使用認定処分が駐留軍用地特措法三条所定の要件を充足しないから違法であるとの原告の前記主張は失当というべきである。

七  結論

以上のとおり、本件各使用認定処分については、原告主張のような違憲ないし違法な点は何ら存しない。よって、原告の本訴各請求は、理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上繁規 裁判官 畑 一郎 裁判官 竹中邦夫は、転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官 井上繁規)

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